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コラム「研究員のココロ」

NPOによるベンチャー起業支援に向けて

2002年02月18日 日吉淳


 「ネットバブル」という言葉が流行ってから数年経つ。今となってはもはや懐かしい響きになってきたこの現象だが、当時を振り返るとまさに不動産マーケットを舞台とした90年代のバブル再来かという状態で、多くのベンチャーキャピタルや銀行、個人投資家がこぞってインターネットベンチャーに投融資を行い、起業家はこの世の春を謳歌していた。しかし、その後環境は激変し、多くのベンチャー企業は倒産し、生き残った企業でも株価は惨憺たる状況である。このため、最近では、ベンチャー企業に対する風当たりは厳しく、優秀なビジネスモデルをもってしても、なかなか起業するのは難しい状況である。

 ベンチャー企業を立ち上げるには、ビジネスモデルやアイディアだけではダメで、法務、財務や会計、特許関連など、さまざまな知識とノウハウが必要となる。この為、過去に起業の経験がある人間はともかく、手厚いバックアップが必要となるのは当然のことである。
しかし、我が国の状況を見ると、コンサルティング会社やベンチャーキャピタルが同種のサービスを提供しているものの、起業のバックアップ体制はお寒い限りである。特に、我が国のベンチャーキャピタルは、スタートアップ時の本当に資金が必要な時期に投資を渋り、ある程度ビジネスが軌道に乗りIPO見えてくると、それこそ横並びでこぞって投資を持ち掛けるという商慣行(?)があると言われている。

 一方、起業先進国の米国では、起業経験のあるコンサルタントやベンチャーキャピタリスとが数多く存在し、起業家に的確なアドバイスを行っている。筆者は昨年、シリコンバレーとマルチメディアガルチ、シリコンアレーを訪れ、起業家をバックアップしている人々の話を伺う機会に恵まれたが、経験豊富な人材の層の厚さとバックアップを受けられる機会の多さに驚嘆したものである。

 起業支援に関して米国での特徴的な点は、商業ベースの支援機能のほかに、ノンプロフィットでベンチャー起業を支援する組織が数多く存在することである。例えば、サンフランシスコのマルチメディアガルチでは、NPOが、起業家向けの教育機関を組織化して、起業家育成を図っており、事務手続きや投資家との交渉、人脈づくり等に関する教育等を行っている。さらには、インターネット関連の成功企業がこのようなNPOの資金供給に大きく貢献しており、 MicrosoftやSunなどの"第1世代"ネット系企業が、NPOを通じて"第2世代"のネット系企業を成長させる為、積極的に資金援助を行っている。

 これらのNPOで特徴的な点は、起業経験のある人間が主催していることは当然として、NPOをビジネスという認識を持って運営を行っていること、また、働いている人間に十分な報酬を与えていることがあげられる。このあたりが我が国とは大きく違う点で、日本ではNPOはボランティアベースで清貧でなければならない印象が強く、NPOがビジネスという認識は低いが、米国ではNPOの主催者が長者番付の上位に載ったりしており、まさにNPOは一つのビジネスとして認知されている。特に、報酬については、優秀な人材が確保できなければ、起業支援を行うNPOの存在そのものの意味が無いとの認識から、人材確保のためには十分な対価を支払うということである。

 日本においても、有名な「ビットバレーアソシエーション」や九州の「D2K」など、全国各地でインターネット系のベンチャー企業関連のNPOが設立され、運営されている。しかし、どちらかといえば情報交換のための連絡組織という色彩が強く、起業支援を行うには至っていない。さらに、これらのNPOは人材や資金が不足しており、十分な活用ができていないことも課題である。我が国において、新たな起業支援体制の構築が必要であるのは明確であり、「起業支援 NPO」の活用とそれらの組織に対する援助をもっと積極的に考えるべきではないだろうか。


出典:「japan.internet.comパブリック」1月22日 
URL:http://japan.internet.com/public/
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