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コラム「研究員のココロ」

地方の活性化と高速道路

2001年12月24日 日吉淳


 このところ、小泉行革の象徴として道路公団の民営化と高速道路未整備区間の扱いが連日マスコミを賑わしている。猪瀬直樹氏を切り込み隊長とする行革断行評議会は採算性を重視して国民の負担を軽減するべきだと声高に主張している。一方、建設族議員や地方の首長などは高速道路の整備が地域の活性化に必要不可欠だとして両者は真っ向から対立してきた。この議論、道路公団については民営化の方向で決着がついたものの、未整備区間の問題は第三者機関での見直しと先送りされるようである。

 確かに、財政再建は喫緊の課題ではある。一方で、沈滞する地方経済の状況を考えれば、高速道路ができれば地域住民も便利になり、企業誘致もしやすくなる、(地元の建設業にも仕事ができる?)、という意見もごもっともではある。そこで、高速道路の整備は地方の活性化にとってどのような効果をもたらすのかを考えてみることにしよう。

 地方における高速道路の整備効果としては、地域で取れた農産物や鮮魚などを大都市の市場にすばやく輸送できるようになることがある。実際に、鳥取県の境港では、高速道路の整備により大都市圏向けの出荷が4倍になったという効果が確認されている。このように、大都市圏に直結する便利なアクセス手段を持つことは、農水産業にとどまらず、工場や物流施設の立地が促進されるなど、産業振興の視点から見れば大きな効果を沿線地域にもたらすことが期待される。

 次に期待されるのが観光客の増加である。ただし、これは魅力的な観光地はという但し書き付きの効果である。観光客は増えたが日帰りばかりで肝心の宿泊客が減ってしまったという地域もあるため、手放しでは喜べないという結果になることもある。

 その他にも救急病院へのアクセス時間短縮や、災害時の道路交通手段確保など、高速道路のメリットは大きいと言える。地方にとって地域活性化に寄与することは間違いない。

 しかし、忘れてはならない高速道路の陰の部分がある。それは「ストロー効果」と呼ばれている。簡単に言えば、高速道路がストローのような役割を果たし、地方の消費力を大都市が吸い上げてしまうということである。

 高速道路がない地域では、一般道で何時間もかけて大都市に買い物に行くことは考えられないため、普段は手近な地元で買い物を済ませることになり、消費力は地元の商業に還元される。しかし、高速道路が整備されれば、ものの一時間も車を走らせれば都市部にある巨大な百貨店や話題のレストランなどに行けるようになることから、品揃えにも限りのある地元の小さな商店街でわざわざ消費をしなくなるのは当然のことである。実際に、本四架橋が開通した結果、買い物客が神戸や大阪に流れて四国の商業が打撃を受けるなどの影響が出ている。

 買い物客が流出するぐらいでメリットのほうが大きいじゃないかと思われる方も多いかもしれないが、これから地方部で整備が予定されている高速道路の大半は、大都市との直結による産業振興効果を期待しにくい地域であり、ストロー効果によるマイナス面ばかりが現れてこないとも限らないのである。大きな期待を背負って完成した高速道路の整備が皮肉なことに地域経済にとってマイナスになってしまうということは、一体何のために多額の投資をして高速道路を整備したのかがわからなくなってしまう。

 筆者は、高速道路整備は直接的採算性のみを考えるべきではないと思うが、投資に見合うだけの整備効果が得られるのかという実効性の確認を前提に、高速道路の整備効果を活用してどのように地域住民の生活を豊かにしていくのかという視点は不可欠であると考えている。また、高速道路利用者の負担軽減という視点も忘れてはならない。いくら高速道路を作っても高すぎる料金では企業も消費者も利用を躊躇してしまう。利用料金の引き下げについてももっと突っ込んだ議論が必要である。そもそも、当初の計画では東名高速はとっくに無料化されているはずなのだから…。
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