コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

コラム「研究員のココロ」

地方主権時代の地域産業育成のあり方

2003年06月23日 志水武史


従来型の地域活性化政策の限界
 今日のわが国における重要な政治課題の一つは地方分権である。地方分権一括法の施行、市町村合併の進展などにより、地方分権の受け皿は徐々に整いつつあるが、中央政府から各種の権限や税源を移譲するだけで直ちに地方分権が達成されるわけではない。地方自治体が実質的に政治・経済の主体となるためには、「地域の活性化」を通じた人材・雇用の確保や財政面での自立(税収の確保)が不可欠であることは言うまでもない。

 ところが問題は、地方分権の鍵となる「地域の活性化」が、近年ますます難しくなってきていることにある。その原因としては、①中央・地方政府の財政が悪化し、活性化政策を実施するための予算が不足していること、②公共事業やイベント開催などによる活性化効果は多くの場合、一過性であること、③生産拠点の海外流出により、企業誘致が困難になりつつあること、④環境に対する国民の意識の高まりに伴い、環境汚染や自然破壊が懸念されるような活性化政策については理解が得られにくくなっていること、などが考えられるだろう。

 これらの経済・社会環境の変化による制約をふまえると、今後、地域の活性化を図るためには、地域住民の日常的かつ持続的なニーズに基づく、地域密着・環境親和型の産業を重点的に育成することが求められる。これは何も難しいことを言っているわけではない。地方自治体は高度先進の産業分野に投資する前に、まず自らの足元を見る必要がある、というだけのことである。

地域活性化に役立つ地域密着型産業とは
 さて、地域の活性化に役立つと考えられる地域密着・環境親和型の産業としては、「ヘルスケア(医療・福祉)」、「教育(生涯教育、保育サービス含む)」、「環境(リサイクル事業、新エネルギー関連事業、環境修復・保全事業等)」、「農業」などが考えられる。

 これらの産業が地域活性化に役立つと考えられる理由をここでまとめてみると、
(1) 労働集約的であること(雇用の受け皿として有力)、
(2) 少子高齢化、価値観の多様化が進展する中で潜在的な成長可能性が高いこと(持続的な税収が期待される)、
(3) 地域住民の健康維持・生活の質向上に資すること(転入人口の増加が期待される)、
(4) 地域特性が活かされること(差別化が容易)、
(5) 国内生産財に対する需要が高いこと(産業空洞化の懸念が少ない)、
(6) 環境負荷が少ないこと(産業としての持続可能性が高い)、
(7) 規制緩和により、株式会社・NPOなど多様な担い手の参入が想定されること、
などが挙げられる。

 実際、農業除くこれらの産業における就業者数は、わが国全域において過去10年間で大きく増加しているだけでなく、人口集積の少ない地域においても事業展開している実績がある。また、NPO法人の活動分野として最も多いのはこれらの産業である。

 さらに海外の自治体に目を転じてみても、政府や自治体の支援を受けて、米ナッシュビルではヘルスケア産業、独ノルトライン・ヴェストファーレン州では環境産業の集積が進んでおり、これらの産業が中心となって地域の活性化に貢献している面もある。

地方主権時代の地域産業育成のあり方
 では、上記の地域密着・環境親和型産業に対して、国や地方自治体はどのような育成支援策を実施すべきかということについて考えてみたい。

 第1に、国、地方自治体、さらには地域住民のそれぞれが旧来の公共事業等に依存した地域活性化策から脱却し、産業育成の重点を地域密着・環境親和型産業にシフトするという意識転換が必要である。地方自治体としてはさらに地域特性を見極めた上で、どのような地域密着・環境親和型産業を重点育成するかということについて、「選択と集中」を行なうことが求められる。

 第2に、国は、今後重点育成すべき産業分野についての明確かつ一貫したグランドデザインを描き、政策の整合性を確保することが求められよう。例えば、ヘルスケア分野に着目すると、一方で産業育成の必要性を謳いながら、他方では医療保険制度の財政的な観点から医療費の抑制政策を推進し、市場の拡大に歯止めをかけている。こうした二律相反した政策の下では、成長が期待される産業分野への投資マインドが縮小してしまうおそれもある。

 第3に、地域密着・環境親和型産業の担い手(NPO含む)に対する国と地方自治体の重層的な支援策を検討する必要がある。具体的には、株式会社による医療機関・学校の経営、農地の取得など参入・業務規制の緩和、事業者・消費者に対する課税優遇・補助金支給、就業希望者等に対する教育プログラムの提供などが考えられる。

 以上の施策により、地方の活性化が進み、実質的な地方主権が達成されることが期待される。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ