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コラム「研究員のココロ」

市になってから合併しても、いいですか?

2001年11月26日 亀山典子


 それは、某県で開かれた市町村合併に関するフォーラムでのことでした。合併特例法や県が行う合併支援方策などについての説明が一通り終わり、参加者との質疑応答が交わされる一場面だったと思います。発言されたのは出席していた某町の議員さんでした。

 「合併特例法を適用して、市になってから合併してはいけないのですか?」

 心なしか、会場には失笑混じりのどよめきが起こりました。市と町では吸収合併になってしまう。なんとか対等合併に持ち込めないものかという思惑がその背景にあることは、参加者のだれもが読みとれました。

 市町村合併する自治体には、合併特例法という法律が適用されることになっています。これは合併市町村に対する「特典」と言い換えてもよいでしょう。その中に、「市となるべき要件の緩和」(同法第5条の2および第5条の3)という項目があります。本来であれば、5万人でなければ市制施行はできないのですが、平成17年3月までに合併した自治体は、3万人でも市制施行ができる、つまり市になれるわけです。

 「きれいごとはどうでもいい。とにかく地域のかけひきをうまくのりきらないと。」
この質問をした議員さんの本音が聞こえるようでした(ちなみに、市と町でも対等合併を果たした事例は全国にあります)。

 よく「対等合併」「吸収合併」という言葉が使われますが、実は「新設合併」「編入合併」という表現が正式です。合併協議の現場ではこうした用語の使い方一つにも、細心の配慮が必要です。同じように、役所の位置、新市町村の名称についても、協議には慎重さが求められます。

 このように考えると、市町村合併は行政境界がもつ意味を考えさせられるテーマあることに気づきます。日常生活で行政境界を体感することはあまりないわけですが、政治や行政の意思決定には、あまりにも重要な意味をもつ線引きです。都市計画、土地利用をはじめ、自治体独自の施策は、この境界を一つの区切りとして実施されています。線引きが変わることで、行政運営や公共事業など、地域の利害に大きく影響を与える事態が生じます。合併後のまちづくりに重要な影響を与えるだけに、合併協議をなるべく自分たちの地域にとって有利に進めておきたい。冒頭での質問をした議員さんはこう考えたのでしょう。このような考え方に対して賛否の声はさまざまでしょうが、こうした利害調整を乗り越えなければ合併は成立しないことは確かです。現在、合併を協議する地域では、まだ見ぬ将来のまちの姿を描きながら、試行錯誤の調整を続けている人々がいるはずです。合併協議会運営のコンサルティングをしていると、合併に対する考え方や協議の進め方が地域によって特色があることがはっきり分かります。それは、合併協議というフィルターを通して、そうした地域の試行錯誤を体感することでもあり、まちづくりに対する認識を新たにすることの連続です。

 さて、冒頭の質問に対する県職員の方の回答はこうでした。
「合併特例法に定める市制緩和の要件は、あくまで合併する自治体に対して適用されるものなので、合併を前提としない自治体に対しては適用されないのでご理解いただきたい。」

 まったくもって当然の回答です。
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