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コラム「研究員のココロ」

横浜中華街の「客が集まる店」

2003年02月10日 渡辺康英


横浜中華街

 約200軒の中華料理店が集積する横浜中華街は、年間1800万人の来訪者を集める国内有数の観光地である。横浜中華街の魅力は、料理店以外にも食料品店、雑貨店、土産物店、衣料品店などが密集し、食事や買物などを通じて異国の雰囲気を味わうことができるところである。最近では、立川、お台場、千里などの商業施設にもミニ中華街が作られ、「中華街」は有力な集客装置として活用されつつある。


集客格差

 天気の良い休日の横浜中華街は、メインの中華街大通りから路地に至るまで人があふれ、昼食時には行列を作る料理店が多い。しかし、集客力が注目されている横浜中華街でも不況の影響を受け、食事客数や客単価にはかげりが生じていると言われている。天候が悪い場合には、たとえ休日であっても「客が集まる店」と「客が少ない店」に分かれている光景を目にする。さらに平日の夜の中華街では、客がほとんどいない店も見受けられ、人気料理店との集客格差は明確になっている。「客が集まる店」には、どのような特徴があるのだろうか。


美味しさ以外の集客要因

 自宅が横浜中華街に近いことから、私は中華街で食事をする機会が多い。私の経験では、必ずしも料理の美味しい店だけが客を集めているようには感じられない。多数の客を集めている店でも「この味で、どうして行列してまで食べる人がいるのか」と感じる店もある。横浜中華街の料理店は総じて美味しい料理を提供しているが、同業者が集積しているだけに、美味しさ以外の部分に集客格差の要因があるように感じられる。
それでは「味」以外に、多数の客を集めているポイントは何だろうか。横浜中華街で人気を集めている店には、次の特徴があるように思える。


○PR-「テレビや雑誌での紹介」
 料理店がずらりと建ち並ぶ横浜中華街では、どの店で食事をすればよいものか迷うことが多い。その時に料理店の選択に大きな影響を与えるものが、テレビや雑誌での紹介である。中華街をテーマとしたテレビ番組や特集記事などで頻繁に紹介される料理店は、行列が出来上がるほどの集客効果が生まれている。料理店自らがテレビや雑誌に広告を出すよりも「紹介される」ことが重要であり、その情報を自らの舌で確かめようとする人たちが大勢集まってくる。テレビや雑誌での紹介記事や、食事をした芸能人の色紙を店頭に張り出しているが、この「紹介」によるPRが大きな集客効果を発揮している。


○低価格-「合わせ技による低価格」
 横浜中華街でも「低価格」が人気を集めている。休日でも1000円以下のランチメニューを出す料理店が増え、北京ダックやフカヒレスープのような高級料理でさえ低価格で提供する料理店が出現している。こうした「低価格」傾向の中で、注文を受けて「出来たて」料理を提供するバイキングや、2000円前後の手ごろな価格でコース料理を提供する料理店が人気を集めている。スープ、前菜、炒め物、蒸し物、揚げ物、デザート類などを組み合せて商品の魅力をアップさせ、その上でお値打ち価格で提供する「合わせ技による低価格」が人気を集めている。


○新規開拓-「馴染みの薄い客層に挑戦」
 女性客や若者を引きつける店舗づくりやメニューを工夫している料理店も、人気を集めている。店内の雰囲気が華やかさやセンスの良さに満ちている料理店や、デザートメニューを充実させている料理店は、女性客の人気を集めている。さらに、近年セルフサービス方式の飲茶レストランや、回転寿司方式の中華料理店も出現し、学生、若者、子供連れまで客層を広げている。インテリア、メニュー、サービス方式を改善して、これまで「馴染みの薄い客層に挑戦」している店は、特に休日に人気を博している。


○個性化-「話題性を生み出す」
 炒飯、焼きそば、お粥、焼売、ワンタンなど、比較的に注文しやすい料理、親しみある料理に特色を持たせた料理店は、中華街でも根強い人気を集めている。お粥で有名なある料理店は、昼食時には常に行列ができており、「行列」自体が大きなPR効果を果たし、通行者に「一度は食べてみようか」という気持ちにさせている。特定のメニューに特化して「専門店化」することや、個性的な味付けや盛り付けを行って「話題性を生み出す」料理店は、マスコミに取上げられる確率も高く、さらに口コミでも広まって、大きな集客力を生み出している。


○提携-「異業種との多様な提携」
 平日の中華街で手堅く集客しているのが、旅行代理店、観光バス会社と提携し、団体客を集めている料理店である。団体客を一度に受入れることが可能な、比較的に大きな料理店であるが、天候にもかかわらず平日でも客を集めている。テレビ制作会社や雑誌社の取材に応じることも含めて、「異業種との多様な提携」に取り組んでいる料理店は、着実に人を集めている。


自らの仕事に再点検が必要

 横浜中華街の「客が集まる店」は、「美味しさの提供」以外に、「PR」「価格」「新規開拓」「個性化」「提携」が集客面に少なからず作用している。職人気質の料理人によって、ひたすら美味しい料理を追求している料理店だけが、人気を集めているわけではなく、むしろ集客を促す情報の創造や発信などをはじめとして営業面での工夫を重ねている料理店が集客力を高めていることがうかがえる。こうした特徴は、横浜中華街だけに限定したことではなく、購入者側が「商品」の差を事前に確認しにくい分野にも、当てはめて考えることができるだろう。


 企業の業績悪化、国や自治体の財政難など逆風が取り巻くコンサルティング業界においても、受注競争は一層厳しくなることが予想される。「仕事が集まる会社」と「仕事が少ない会社」の差が広がるだけではなく、「仕事が集まる研究員」と「仕事が少ない研究員」に分かれる可能性があるだろう。そう、まず私自身が後者にならないよう、「美味しさの提供」に加えて、自らの仕事における「PR」「価格」「新規開拓」「個性化」「提携」に、さらに工夫を重ねなければならないと考えている。
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