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コラム「研究員のココロ」

間接・補助部門の改革へ向けて
~建設業におけるシェアードサービスのあり方~

2002年09月30日 山田英司


 決算発表のピークも過ぎ、建設各社の昨年度の損益が公表されたが、その結果は予想通り厳しいものであった。一時期の激しいダンピング合戦はここのところ落着きを見せているが、建設市場そのものは縮小傾向が続いているので、今後とも各社においてギリギリの線までのコスト削減への努力は続くものと思われる。


 このような背景を受けて、建設業においても総務・経理などの間接部門について見直しを行おうという動きが活発となっている。また、設計・積算・技術支援などのいわゆる補助部門についても一部の企業では見直しを開始しつつある。


 確かに建設業においては、受注生産の特徴上、事務作業から技術支援まで工事毎に個別対応してきた経緯があり、作業所の規模によってはこれらの間接・補助機能を丸抱えしているケースも見られる。また、距離上の問題からこのような業務を行う間接・補助部門を拠点単位に置いているケースが一般的である。そういった観点から見ると、建設業における間接・補助部門は業務を集中処理することで、より一層の作業効率向上とコスト削減を図る余地があるといえよう。


 このような過程背景で、登場するのがシェアードサービスである。シェアードサービスとは複数の部門やグループ企業間における共通的な業務を標準化するとともに、集中化させてコストダウンを実現することであり、この業務を集中化して提供する組織をシェアードサービスセンターという。もっともシェアードサービス自体は目新しい概念ではなく、実際に建設業においても古くより事務センター化や、機能子会社を設立しているケースも散見される。しかしながら、これらの組織の設立目的が管理職のポスト確保や、表面的な人員リストラを目的としているケースが現実には多く見られる。こういったケースにおいても当初はそれなりの効果があったものの、近年の企業を取巻く環境変化の結果として現在ではかつてほど成果をあげていないというのが実情のようだ。


 それでは、間接・補助部門の改革推進に向け、シェアードサービスを効果的に活用するにはどのような方策が必要か。成功のポイントは、「明確なゴールの設定」、「サービスとコスト体系の明示」、「構成員のモチベーション向上」の3点にあると筆者は考える。以下、これら3つの重要ポイントについて建設業の特性を踏まえつつ説明する。


 まず「明確なゴールの設定」であるが、シェアードサービスにおけるゴールは「企業(グループ)内完結型」と「外部市場対応型」の二通りが存在し、当然ではあるがどちらをゴールにするかによって切り出すべき業務の範囲や、標準化やサービスレベルの度合い、内外部の資源の利用方法など位置付けと期待効果が全く異なってくる。従来の建設業で行われてきた事務センターや機能子会社についても今後、曖昧な目標設定を改めゴールを明確に設定する必要があると思われる。


 次に「サービスとコスト体系の明示」についてであるが、従来の事務センターや機能子会社については、ポスト確保や人員の移管が中心であったため、収支尻を合わせるために包括的に料金を付替するケースが多かった。しかし、これではコストダウンにはならず、効果も非常に限定的になってしまう。シェアードサービスとしての効果を発揮させるには、提供サービスを細分化し、コストドライバー毎に料金を設定することで、「いかなるサービスをいくらで提供する」のかを明示し、受益者との間に費用対効果という視点での緊張関係をつくりあげる必要がある。


 そして最後の「構成員のモチベーション向上」であるが、建設業における従来の事務センターや機能子会社については、近年の厳しい経営環境もあり人員リストラ的な要素が強く、構成員のモチベーションを向上するどころか維持することすらも困難なケースが多い。このような状態を改善するためには、権限委譲を含めた委託業務の高度化を推進することや、収益責任と達成時のインセンティブ付与を明確にすることでプロフィットセンター化を進めることが必要である。特に設計・積算など技術系のシェアードセンター設立に関際しては、社の委託業務の高度化推進がモチベーション向上に相当大きく寄与するものと思われる。


 間接・補助部門の改革を推進するシェアードサービスの導入に関し建設業において障壁になっていたのは、業界特性でもある作業所という生産拠点が可動的でかつ複数存在することであったが、作業所のIT環境の急速な整備もあり、従来の障壁は解消されつつある。上記のポイントを押さえたシェアードサービスを設立するとともに、ITを活用しいかに効率的に運用できるか、建設業における間接・補助部門の改革の成否はまさにそこにある。



本稿は2002年8月6日付日刊建設工業新聞に掲載分に加筆修正したものです。
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