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社会的困窮者の効果的な自立支援のあり方と専門職の役割に関する調査
~初期段階における専門職によるアセスメントが状況好転の鍵~

2012年07月13日

各位

株式会社日本総合研究所

 株式会社日本総合研究所 (本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 藤井順輔)は、平成23年度社会福祉推進事業の国庫補助を受け、「社会的困窮者の効果的な自立支援のあり方と専門職の役割に関する調査」を実施し、その調査結果をとりまとめました。

調査の背景と目的

 本調査では「社会的困窮者」を、経済的な理由だけでなく、社会的な要因が絡み合って困窮状態に陥った人ととらえ、既存の福祉制度の枠組み(高齢・障害・児童・母子など)から漏れてしまいがちとなる人々を取り上げた。具体的には、社会的孤立、外国籍、深刻なうつ状態にある人、軽度の知的障害者などを分析の対象としている。
 現在、引きこもり、外国人、障害者などを対象に、個別に焦点を当てて支援を行う民間支援団体は数多く存在するが、そのノウハウは属人的に蓄積することが多く、記録されて共有されることは少ないのが実情である。そこで本調査では、複数の要因が絡み合う社会的困窮者を対象に、支援のプロセスを時系列・領域別に整理し、可視化することによって、「自立」に至るまでにどのような経過をたどるのかを明らかにすることを目指した。
 また、複数の課題を抱える社会的困窮者が「自立」するまでに解決すべき課題は多く、期間も長い。そのため、最終的な成果だけでなく中間的な効果を把握するためのマイルストーンを設定することも本調査で試みた。効果測定の指標となるマイルストーンがあれば、自立支援の効果について、評価対象期間が限られる場合でも、「最終目標に対して道半ばまで来ている」といった評価を第三者が行うことができる。
 社会的困窮者は、経済的な逼迫に加えて、住居、健康や障害、就労や就学、人間関係の構築などさまざまな課題を抱えていることが多い。自立支援にあたっては、福祉職、医療職、行政職、あるいは職場の同僚や近隣住民など、対象者を取り巻くさまざまな人々が役割分担をしながら最適な支援を提供していくことが有効である。そのため本調査では、支援のプロセスを可視化する過程で、支援対象者だけでなく、支援者にも焦点を当てて、その役割やかかわりを明確にすることも試みた。

調査の概要

調査対象地域: 埼玉県、岡山県、鹿児島県
調査対象者: 28人(男性23人、女性5人。20代以下5人、30-40代10人、50代以上11人、年齢不明2人)
調査手法: ケース記録の文献調査、支援団体の担当者に対するヒアリング調査、検討委員会での討議
報告書対象: 全28ケースのうち、中間的な効果または専門職の役割が明らかとなった11ケースを抽出

調査結果の概要

<支援を受ける意欲が芽生えるまでに数年かかるケースもある>

 困窮していても、「助けてほしい」と言って自ら支援団体を訪れるとは限らない。炊き出しなどで支援団体から声をかけられたり、親からの依頼や行政からの紹介などで支援団体と引き合わされたりしても、本人が支援を受けることに消極的なことが多い。「今のままでいい」「人を信じられない」「干渉されたくない」といった姿勢の相談者が、誰かの手を借りて生活を立て直したいという意欲を持つようになるまでには相当の時間がかかることもある。検討対象事例のなかには、支援を受ける意欲が芽生えるまでに3年以上かかるケースもあった。
 また、支援開始にあたっては現実の受容が必要である。例えば治療を受けるには自分が病気である事実を理解しなければならないが、これを受け止めたくないと考えるケースも少なくない。
 複数の事例に共通して見られたのは、
  支援者との信頼関係の構築
   → 現実の受容と支援に対する意欲の表れ
    → 個別領域(例: 健康、住まい、就労、など) における支援実施と成果の表れ
という経過である。このうち、支援者との信頼関係の構築に至るまでの過程では、形式的な「面接・相談」に限らず、「緊急支援(食料・シェルターの提供や、救急搬送など)」「声かけ」「雑談を交えた会話」などが複雑に組み合わされており、全体像がとらえにくい。一方で、この期間は、支援者が相談者の自立支援を効果的に行うためのアセスメントを開始する重要な段階でもある。

<専門職によるアセスメントと支援計画の作成が事態の好転に寄与する>

 本調査では、社会福祉士等の専門職が社会的困窮者の支援に携わる事例を対象とした。社会的困窮者の支援にかかわるさまざまな職種の中で特に専門職に注目したのは、専門職が持つアセスメント(課題分析)、支援計画の作成、関連機関のコーディネートなどの機能が重要と考えたためである。社会的困窮者のほとんどは、職場、家族、社会保障制度など複数のセーフティネットからこぼれ落ち、複数の課題を抱えている。状況が好転した事例では、専門職が複雑な課題を解きほぐし、複数の制度から適用可能なものを組み合わせて支援計画を作成し、地域に支援の担い手がいなければ、担い手となり得る人材や機関を見つけ、育てていくという、専門職の機能が活かされる様子が見られた。
 現在、社会的困窮者支援に対する包括的な制度あるいはワンストップの窓口はない。このため、アセスメントを受けられるケースはごく限られる。例えば、生活保護受給申請のために福祉事務所を訪れても、年齢だけをもとに稼働能力があると判断されるケースも少なくないという。就労に向けた障壁が何なのかというアセスメントの実施、その障壁を取り除くためにどのような支援が必要なのかという支援計画を立てるには至っていない。本報告書では、専門職によるアセスメントを困窮者の支援過程に組み込むことを提案している。

<専門職の効果的な活用と伴走型支援者の引き継ぎが重要である>

 本調査で取り上げたケースでは、生活保護申請など行政手続きの書類作成支援や窓口同行、家の手配、引っ越しの手伝いや家電購入付き添い、通院の予約や同行、福祉サービスの手配、ハローワークへの同行、職場の上司や家族とのコミュニケーションの仲介、日常的な声掛けや見守りなど、支援団体の担当者が何から何まで引き受けている例も多かったが、支援の受け皿には限りがある。
 福祉職・医療職・その他の専門職が最適な役割分担によるチームを構成し、住居、医療・介護、就労など各分野での支援が軌道に乗ってくると、専門職の関わりは淡くなっていく。その段階まで来たら、日常的な相談に乗る伴走型の支援者に引き継ぐことが理想的である。伴走型支援者は、職場の上司や同僚、家の大家や隣人、交流事業を行っているボランティア団体のスタッフ、当事者同士など、さまざまな人が担い得る。そのような役割分担が実現してこそ、専門職はまた新たなケースを担当することが可能になる。

ケース分析結果の抜粋

 報告書で取り上げた11ケースのうち、3ケースを抜粋して紹介する。

■事例A
 Aさんは知的能力が低く、生活保護を受けながら民間支援団体が運営する支援付アパートで生活していた。同アパートの別室に、Aさんの母親が入居して支援を受けていたことが、支援団体に出会うきっかけだった。Aさんはこれまで就労したこともあったが、知的能力の低さもあってか仕事が続かなかった。
 民間支援団体の精神保健福祉士は、日常的な生活支援を通じてAさんの知的能力についてのアセスメントを行い、療育手帳を取得できるのではないかと考えた。療育手帳を取得すれば手帳を活用して、障害者向けの就労支援や障害者雇用の機会が広がる。そこで支援団体の担当者は療育手帳の取得についてAさんにも分かりやすい言葉で説明した。Aさんは、就労に有利なことや障害者福祉サービスが利用できることを理解し、手帳取得に意欲を示したため、申請手続の準備を進めた。
 申請時には行政の窓口で「日常生活で困難を抱えており手帳を取得したい」という本人の意志を、支援者の代弁ではなくAさん自身が表示する必要がある。このため、Aさんと支援者で面談を重ね、自分の言葉で伝えられるように準備した。手帳取得後、支援者は障害者雇用に積極的な事業主と相談者を引き合わせ、Aさんは内職での就業に至った。
■当事例についての考察
 療育手帳は、取得することに抵抗感があるケースもあり、支援者は相談者との信頼関係の構築度合いや相談者の意向を踏まえて慎重な提案が必要である。支援団体による日常的な支援の積み重ねや、相談者に対する家族ぐるみの支援が、信頼関係構築の土台となっていると考えられる。信頼関係を築き、支援を受けることに意欲を示し、その成果が表れるというプロセスをたどっている。

■事例B
 Bさんはこれまでに何度も障害者雇用枠で清掃関係の仕事に就いていたが、短期で退職することを繰り返していた。自宅の清掃・整理整頓の状況から、清掃業務には適性があると見られたBさんが仕事が続かない理由を明らかにするため、民間支援団体の社会福祉士が丁寧に話を聞いた結果、Bさんは漢字で書かれた作業の指示書や、複雑な業務内容を理解することが難しく、職場でのコミュニケーションに課題があることが明らかになった。
 そこで、支援団体の担当者が、Bさんの職場に出向き、直属の上司や人事担当者と面談を行った。Bさんが仕事上で困難を抱えている状況を説明して、丁寧な説明や、業務内容をシンプルにすることに理解を求めた。また、Bさんの体調によっては時間内にすべての業務を完了することが難しいため、曜日によって清掃の開始地点を変えることで、2日あれば全面の清掃が完了するような工夫を提案した。こうした仕事の進め方について、支援団体の担当者の同席のもとBさんと上司の間で合意した。このような支援を受けて、Bさんは、過去最長の就業を継続している。
 さらに、Bさんから支援団体の担当者に、職場で同僚と同じ食堂を利用したい、おやつを買いたいという要望があり、昼食・おやつ代を封筒に小分けして金銭管理を支援するなどの工夫をしている。休憩時間のおやつなど業務外での同僚での交流を間接的に支援することで、職場でのコミュニケーション全体の円滑化につなげている。
■当事例についての考察
 就労上の課題を丁寧にアセスメントし、業務上の困難を明らかにしている。丁寧なアセスメントが功を奏した事例といえる。支援団体の社会福祉士が相談者の上司と課題を共有したことで職場の理解を得ており、ジョブコーチ的な役割も果たしている。相談者の能力にあった仕事の提案をすることで、より働きやすい仕事へと改変したことも就労継続に寄与したと考えられる。さらに、業務外でのコミュニケーションも支援することで、Bさんにとってより働きやすい職場となっているといえる。働くことが相談者本人にとって励みにもなっており、障害者雇用で働きながら生活保護を受給し、半就労・半福祉で安定した生活を継続している。

■事例C
 河川敷で野宿生活をしていたCさんは、医療扶助を利用して肺気腫の治療を受けながら、『ビッグイシュー』の販売員として働いていた。しかし体調悪化により就業と野宿生活が困難になり、支援付アパートへの入居と同時に生活保護を申請した。
 Cさんは医師から肺気腫の症状改善のために禁煙の専門外来の受診を勧められていた。しかしCさんには軽度の知的障害があり、初対面の相手と簡潔に話をするのが難しいため、まず民間支援団体の社会福祉士が事前に時間をかけて、Cさんの症状や禁煙への意欲について確認した。そして、支援者が禁煙外来の通院に同行し、Cさんに代わって症状などを医師に説明した。禁煙補助薬の処方を受けたあと、支援者はCさんが入居する支援付アパートを週2回程度訪問し、服薬と禁煙の継続状況を確認していた。しかしCさんは、禁煙補助薬の副作用による吐き気やめまいのため服薬を中断し、喫煙を再開してしまったうえに、同じ薬を再度処方されることや、喫煙を叱責されることを恐れて、通院に消極的になった。
 これに対し、支援者はCさんを励まし、Cさんに通院を促したことで通院を再開することができた。薬を変えて禁煙を再開し、成功したことにより、Cさん肺気腫の症状も改善した。現在は福祉施設に入所し、福祉的就労として養鶏の仕事をしている。施設入所にあたっては、それまで支援してきた民間支援団体の担当者から、施設の担当者に引き継ぎを行っている。
■当事例についての考察
 ニコチン依存症管理料算定医療機関であっても禁煙治療の中断率は高く、治療が完了しても喫煙再開者が少なくない。禁煙の成功には、医学的な管理と、日常的な支援、本人の意欲など多面的な要因が必要であり、本事例では医師と、福祉職とのチームワークが功を奏した事例であるといえる。禁煙の開始、処方の変更など、相談者と医師とのコミュニケーションが困難で挫折しそうな場面において、支援者が協力することで禁煙が継続・成功した。初期段階での専門職同士の役割分担、ならびに、福祉施設入所に伴う円滑な引き継ぎの面において、専門職の効果的な活用と伴走型支援者の引き継ぎの例といえる。

調査の詳細については、 別添資料(「社会的困窮者の効果的な自立支援のあり方と専門職の役割に関する調査研究事業」)をご参照ください。

以上

本件に関するお問い合わせ先

総合研究部門: 齊木 大、岡元 真希子
TEL: 03-6833-1575
E-mail: rcdweb@ml.jri.co.jp

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