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沖縄の未来の可能性 ~アジアをキーワードとした製造業集積の動き~(上)

2017年05月12日 八幡晃久


■三次産業が牽引してきた沖縄経済

「沖縄県の主要産業は何か?」と聞かれれば、何を思い浮かべるだろうか。

 まず思いつくのは、観光産業だろう。事実、沖縄県の観光収入は2015年度に6,000億円を超過。県経済を牽引する最大の産業である。特に近年は、日本全体と同様にインバウンド客の増加が顕著であり、入域観光客数は3年連続で過去最高を更新中である。
 続く産業は、情報通信産業であり、2015年度には生産額が4,000億円を突破している。一時期、沖縄での開設が相次いだこともあり、沖縄といえばコールセンターのイメージが強いかもしれないが、実際には、情報通信産業のうちソフトウェア開発の生産額(1,436億円)が最も大きく、次いで通信・ネットワーク(1,327億円)、次にコールセンター(651億円)となっている。
 また、国際物流産業も主要産業の一つとして沖縄県経済を牽引しつつある。2009年のANA沖縄貨物ハブの運行開始以降、国際貨物取扱量が伸び、2015年度の那覇空港の同取扱量は全国4位に上っている。
 以上が沖縄県における主要産業といえるが、お気付きの通り、全て第3次産業であり、製造業が入っていない。

■日本復帰後、製造業の誘致につまずいた沖縄

 1972年の日本復帰後、第1次沖縄振興開発計画(1972~1981年度)の中で、製造業の誘致により製造業出荷額の拡大を図り、第2次産業の比重を18%から30%まで引き上げることが目標とされていた。1973年には、中東から日本本土への石油中継・備蓄基地として、沖縄石油基地株式会社が設立されたものの、1971年のニクソンショックによる円高と国内製造業の国際競争力の低下に加え、1973年のオイルショックを契機とした高度経済成長の終焉の影響もあり、誘致活動は思ったようには進まなかった。
 第1次振興計画の結果も踏まえ、その後の沖縄振興開発計画では、製造業の誘致・集積よりも観光・リゾート産業や情報通信産業の育成・拡大を志向した経済政策が中心となった。
 現在、県内総生産に占める製造業比率は、4.2%であり、全国と比して大幅に低い値に留まっている。また、製造出荷額の大きい業種は、石油製品・石炭製品、食料品、飲料・たばこ・飼料となっている。石油を除けば、ほぼ内需向けの業種であり、沖縄県外に輸出されるような製造業の集積はみられない。

図表:国内/県内総生産(名目)に占める製造業比率(%)


 沖縄は、日本復帰後、製造業を中心とした産業構造へのシフトを試みたものの、国内製造業自体の転換点の中でつまずくこととなった。結果、地理的な辺境性に起因する物流費の高さに加え、ものづくりを支える加工技術や副資材を提供し得る企業も育たず、国内製造事業者からみて「行く理由の無い場所」となってしまったのである。
 しかし、昨今、新たな形で、生産拠点としての沖縄のポテンシャルを感じさせる二つの動きが見受けられる。
 一つ目の動きの主役は台湾メーカーである。自動車部品メーカーや化粧品メーカーといった台湾企業が、新たな生産拠点として沖縄を選ぶ事例が出ている。
 二つ目の動きの主役は、日本の技術系新興企業である。既存の取引関係や雇用維持といった制約の少ない新興企業が、独自技術を活かした特徴ある製品を武器に、アジア市場の開拓を狙う生産拠点として沖縄に進出している。

 次稿では、上記の2つの動きについて、各社の狙いを整理するとともに、沖縄における将来的な製造業集積の可能性を考察する。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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