先行事例――学習・指導プロセスの可視化 ICTの活用は、従来は見えにくかった学習の進捗状況や児童生徒の行動を、データとともに把握して、学びと指導の改善につなげることを可能にする。 学習の進捗状況に関するデータを可視化している先進的な事例として、Summit Public Schools(米国で11の中学・高校を運営する組織)の取り組みがある。Summit Public Schoolsは、Facebook社と連携し、ビル・ゲイツ夫妻の運営するゲイツ財団などから寄付を受けて、教育改善と独自のシステムPersonalized Learning Plan(PLP)の開発を行っている。PLPは生徒の目標や学習スケジュール・進捗状況を管理できるプラットフォームで、様々なコンテンツでの学習の記録を収集して、個人ごとにどの教科でどのような内容に取り組んでいて、どこに遅れが見られるかをダッシュボードによりリアルタイムに可視化する。生徒自身や教員は、この情報を学習や指導の改善に役立てている。Summit Public SchoolsではPLPを米国内の他の公立学校にも無償で公開し、普及に努めている。日本でも、スタディサプリやClassiなどの学習支援サービスにおいて、一人ひとりの学習状況や理解度を個人カルテとして可視化する機能が提供されるようになっている。 また、児童生徒の行動のデータに基づく可視化の例としては、ベネッセと岐阜市の中学校による共同研究(2016年7月~2017年3月実施)が挙げられる。共同研究ではタブレットを活用した問題演習を宿題として実施し、週単位の学習量や正誤の記録を生徒や教員にフィードバックした。生徒は自分の学習状況を確認して次の目標設定に役立てることができ、教員は普段知ることが難しい、生徒の学習行動の様子を把握して、適切なフォロー・声かけにつなげるきっかけとなったという。シンプルなだけに他の自治体・学校でも取り入れやすいデータ活用の実践例といえるだろう。
先行事例――個に応じた学習・指導のカスタマイズ 児童生徒の学びや行動に関するデータを、個々の児童生徒に応じた学び(アダプティブ・ラーニング)や、一人ひとりに合った指導の実践に生かすことができるのも、ICT活用の大きなメリットである。 例えば、全ての児童生徒に同じ問題を提示するのではなく、問題への回答状況や理解度に応じて個に応じた問題を提示するアダプティブ・ラーニング・アプリは、米国をはじめ海外で広く活用されるようになっている。個々の事業者により開発されているアプリも多いが、教育出版世界大手のピアソンやマクミラン、ケンブリッジ大学出版などでは、既存のコンテンツを活用してアダプティブ・ラーニングを実現する技術を持つ米国Knewton社と提携してアプリを開発している。Knewton社はZ会、学研、Classi(ベネッセホールディングスとソフトバンクの合弁会社)といった国内大手事業者とも提携している。日本でも既にアダプティブ・ラーニングの要素を取り入れた学習アプリは多く見られるが、今後さらにこうしたアプリの開発・活用が進むと見込まれる。 設問の最適化だけでなく、個の学習方法に応じた最適化にまで取り組む例もある。米国の非営利団体New Classroomsでは、38の中学校に独自の数学学習プログラム(Teach to One: Math)を提供している。このプログラムでは、生徒一人ひとりの理解度をアセスメントにより把握した上で、各生徒に合った学習スケジュール(Playlist)を提示する。Playlistに示される学習内容は生徒ごとに異なる。さらに、ある生徒はデジタル教材での個別学習、別の生徒はグループ学習や一斉学習といったように、学習方法まで含めて個に応じて提示している。こうした取り組みの結果、学力向上の成果も報告されている。 このほか、学習面だけでなく、個に応じた児童生徒の指導・ケアにもデータを活用する例が見られる。米国の場合、属性情報や出欠情報、アセスメント結果や成績、生活指導記録などのデータから、単位取得や卒業が困難な可能性のある児童生徒を検出し、教職員にアラートを出す機能(Early Warning)を持つ校務支援システムや、データ分析サービスが多く提供されている。教職員は、アラート情報を参考としながら、問題が顕在化する前に児童生徒への指導・ケアを行うことが可能となっている。こうした機能・サービスの開発には、大学等の研究機関やデータサイエンティストが関与している例も多い。