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トランプ大統領と風力発電

2017年04月11日 瀧口信一郎


 トランプ大統領は2017年1月24日に署名した石油パイプライン建設の規制緩和に続き、2017年3月28日に「エネルギーの自立と経済成長を促進する」大統領令に署名し、オバマ大統領の「地球温暖化対策」重視から「雇用とエネルギー安全保障」重視へエネルギー政策の転換を進めている。OPECなど産油/産ガス国の弱体化を狙うトランプ大統領が、国産エネルギーであるシェールオイル/ガスを増産し、輸出に力を入れることは間違いない。経済情勢の厳しいミシガン州、オハイオ州など石炭産業の影響が色濃いラストベルト地帯の住民の支持を背景に大統領になったことを踏まえれば、石炭産業に関する規制緩和を進めることも当然だろう。
 トランプ大統領の下でエネルギー政策を担うのがエネルギー省のリック・ペリー長官である。リック・ペリー長官は2000年12月から2015年1月までのテキサス州知事を務めた人物だ。エネルギーの安全保障と雇用を重視する政策を進め、シェールビジネス拡大などで就任期間中に約250万人の雇用を生み出した実績を持ち(図表1)、当初大統領選の候補者にも名乗りを上げたこともある。地球温暖化対策強化に懐疑的でトランプ大統領のスタンスに近く、化石燃料の復権に向けた政策をリック・ペリー長官が推進する形となろう。

図表1

 一方、リック・ペリー氏はテキサス州知事在任中にテキサス州の風力発電を10倍に拡大した実績も持つ。テキサス州の風況はアメリカ中西部に劣るが、再生可能エネルギーの導入を電力会社に課すRPS(Renewables Portfolio Standard)により2025年までに1000万kWの再生可能エネルギー導入目標を設定し、CREZ(Competitive Renewable Energy Zone)政策により風力発電のインフラとなる送電線の整備を進めたことで、現在ではテキサス州は全米No1の風力発電容量を誇っている(図表2)。リック・ペリー長官の就任承認を行う議会公聴会でもこの実績に関心が集まり、トランプ政権のエネルギー政策に対する反発が強い中、円滑な承認につながった。リック・ペリー・エネルギー省長官の風力発電政策がトランプ大統領のエネルギー政策と異なる特徴を出す可能性がある。

図表2

 そもそも、テキサス州の風力発電拡大政策はジョージ・W・ブッシュ元大統領がテキサス州知事時代に始めたものである。2001年に破たんしたテキサス州ヒューストンのエネルギー会社エンロンの元CEOで政商と呼ばれたケネス・レイ氏が、グリーンビジネスに商機を見いだしブッシュ元知事に働きかけたことがきっかけである。エンロンは経営危機にあったアメリカNo1風力発電メーカーのゾンド社を買収し、1995年頃まで隆盛を誇っていたカリフォルニア州の風力発電ビジネスを引き継いだ。ブッシュ元大統領はテキサス州知事として200万kWの再生可能エネルギー導入目標を掲げて風力発電ビジネスの誘導を図り、ブッシュ大統領誕生で副知事から知事に昇格したリック・ペリー氏はこの政策を引き継いだ。
 2001年に破たんしたエンロンの風力発電ビジネスを引き継いだGEは、テキサス州での受注をてこに風力発電製造事業を拡大し、2014年には世界一の導入量を達成した。1995年頃まで世界一であったアメリカの風力発電の系譜を受け継ぎ、自動車産業とも関連の深い機械部品産業の裾野を持つ風力発電産業はアメリカの雇用に貢献する存在である。風力発電はアメリカで産業として支持されている。
 このように国産エネルギーで、経済効果も高い風力発電はトランプ政権下でも否定されにくい。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)により事業者や投資家層が広がった日本と同じように風力発電は強い投資ニーズに裏打ちされた市場が形成されている。さらに適地であればアメリカの風力発電コストは6円/kWh程度と経済性が高く、多額の国民負担も発生しない。化石燃料の復権が落ち着いた頃には風力発電拡大政策に焦点が移ることも十分に考えられる。
 住友商事は2014年にテキサス州の風力発電事業に参入しているが、日本企業にとって他州でも風力発電事業の商機もあり得る。また、アメリカのエネルギー政策は世界のエネルギーシステムに影響力を持ち、今後の世界のエネルギーシステムのあり方にもつながるため、風力発電を含めてアメリカのエネルギー政策動向を見極める必要がある。今後、トランプ大統領が風力発電についてどのような発言をするのか注目される。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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