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未来洞察と中長期経営計画策定(上)

2016年10月14日 時吉康範


1.未来洞察アプローチの相談

 2016年に入って、大手企業の経営企画部門から中長期経営計画策定に未来洞察アプローチを検討したいとの相談が増えている。
 代表的な相談を例示する
業種テーマ概要
繊維2030年グループ経営戦略グループの将来の事業ポートフォリオを、将来を担う人材に考えさせたい
建設(複数)ポスト2020年経営戦略ポスト2020年経営戦略
部品2030年グループ方針部門横断の検討を通じて,合弁によって拡大してきたグループのあり方を打ち出したい
機械2025年グループビジョンこれまでの中長期経営計画の延長線ではない方法でグループビジョンを策定したい
食品2025年グループのあるべき姿これまでの中期経営計画がダイナミズムに欠けるため中長期視点を取り込みたい

 
 相談の特徴として、以下の3つのキーワードが挙げられる。
1)将来のグループのあり方の策定
2)積み上げ型中期経営計画からの脱却
3)ポスト2020への備え

2.これらのキーワードの背景にある、企業の課題認識

 企業側が述べた課題認識を以下に記す。
1)将来のグループのあり方の策定
 複数の事業組織から構成される大手企業では、事業責任を明確にする目的が先鋭化しすぎたため、あるいは、買収・合併によって業容拡大をしてきたため、「事業組織の縦割りが進みすぎてしまい、人・技術・情報の交流がなく、グループシナジーが生み出せない(グループを組織している意味が見いだせない)」。
 
2)積み上げ型中期経営計画からの脱却
 これまでの中期経営計画は、全社計画というよりは事業計画を束ねたものであり、事業計画であるがゆえに、顧客のニーズが予測し得る今後3年間程度の計画を現在の延長線で描いたもので、「毎年の予算と大して変わりがなく、現在は考えていない未来の変化の考察や未来に向けた計画としての面白みに欠けている」。

3)ポスト2020への備え
 東京オリンピック、パラリンピックというビッグイベントまでは、業績の見通しがついているが、2020年以降にその反動で「市場環境がどうなるか、自社は何をすべきかを今から考えて備えておきたい」。また、商流の上流にある自社はビッグイベントから直接影響を受けないかもしれないが、「業界構造に変化が起きるかもしれない」。

3.未来洞察アプローチと課題解決

 改めて、未来洞察アプローチは、以下の3要素から構成される。
①業界専門家・調査熟練者による調査・分析業務をベースにした従来のコンサルティング
②未来洞察のフレームワーク(スキャニング・強制発想)
③顧客とのディスカッションをベースに気づきとアイデアを生み出すファシリテーション

 キーワード3)ポスト2020への備えは、アプローチ①調査・分析業務をベースにした従来のコンサルティングで十分に解決可能である。一方、他のキーワード1)将来のグループのあり方の策定、2)積み上げ型中期経営計画からの脱却は、①だけでは解決できないと考える。
 まず、キーワード2)積み上げ型中期経営計画から脱却するためには、線形・定量だけではなく非線形・定性の情報を考慮し、また、固定観念を打開するために多産多死型のアイデア(戦略オプション)を捻出する必要がある。このために、アプローチ②未来洞察のフレームワークのスキャニング手法による非線形・定性予測と、強制発想法による多産多死型のアイデア導出が適している。
 そして、キーワード1)将来のグループのあり方の策定は、アプローチ②のような共通の手法を用いることを前提に、各事業組織からメンバーを選出・召集し、アプローチ③気づきとアイデアを生み出すファシリテーションを実施し、多様性を十分に活かしたうえで共通言語を作ることが求められる。

4.未来洞察アプローチを導入した企業としなかった企業

 今回、中長期経営計画策定に関する代表的な相談と企業の経営企画部門の課題認識を紹介し、未来洞察アプローチとの適合性を解説した。
 しかし、相談のうち支援するに至ったのは半数である。次回は、導入した企業としなかった企業の理由を踏まえ、未来洞察アプローチと企業の適合性について考察する。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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