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【素材系R&Dの未来】IoT活用による技術継承

2016年06月24日 吉田 浩之


技術的な強みは属人的なノウハウにあり

 企業の業績が好調な昨今、稼いだ収益を新規事業に投資しようと考えている企業が多くなってきている印象を受ける。新規事業を検討するにあたっては、自社技術の強みを再定義し、その強みを起点に新しい製品・事業を創造するといったアプローチを採用する企業も少なくない。日本総研でも同様のアプローチを採用するクライアントに対し、「自社技術の強みを再定義する」といったプロセスから支援させていただくことが多い。

 自社技術の強みを再定義する上で重要なことは、対象製品が「売れている理由はなぜか?」、つまり「どのような機能・技術によってその強みが発現するのか?」といった事実を突き詰めることであると考えている。
 筆者の経験上、事実を突き詰めていくと「売れている理由」につながる「機能・技術」は最終的にエンジニアの属人的なノウハウに起因する、といった結論に落ち着くことが多い。例えば、

 「顧客の要望に合わせてカスタマイズするための材料選択のノウハウ」
 「材料Aと材料Bを適正に混ぜ合わせるための量とタイミングのノウハウ」

 いずれも、過去の経験により個人に蓄積されたノウハウであり、一義的にデータシートなどに記載しておけば、他人が簡単に真似できるような代物では無いことが議論から分かってくる。
 日本の素材系産業は過去から現在にかけて、世界的に競争力の高い分野の一つとして位置づけられている。競争力を発現する要因の一つとして、蓄積された属人的なノウハウがあり、中韓などの新興素材系企業が簡単に真似できない理由も、ここにあるのではないかと考えている。

技術の継承に課題あり

 ただし近年は、ノウハウが属人的にしか蓄積されていないことが課題だと捉えている企業も少なくない。実際、クライアントの方々からは、以下のようなコメントを聞くことが多い。

 「A製品の配合技術の細かな設定はBさんしか知らないため、Bさんが退職した後は……」
 「Cさんが転職したため、D製品の製造条件の詳細が把握できなくなってしまった……」

 このようなコメントから、エンジニアの退職・転職にともなった技術継承の断絶が起こり始めているといった印象を強く受ける。

 素材の開発・製造条件などは、社内のデータシートに記録されているケースが多く、表面的な技術継承は可能である。ただし素材系の開発・製造は、前述したとおりラストワンマイルの細かな条件設定が重要であり、それは何年も経験を積むことで継承される、いわゆる職人技に使い技能だと言うこともクライアントとの議論から明らかになっている。そのため本当の意味での技術継承を実施することが難しい。
 一方で技術継承をしっかりと行うために、引き継ぎのためだけに業務を数カ月間割くことや、予め一つの業務を複数人に担当させておくといった方法論も考えられるが、現在の競争環境下では企業側にも余力がないのが実態だろう。結果として技術継承はされず、日本にとっての虎の子である素材系産業の競争力も徐々に低くなるのでは、といったことを危惧している。

IoTを活用した技術継承

 そこで素材系の開発・製造プロセスにおける技術継承の切り札としてIoTを活用することを提案する。中期的にセンシングの精度が進化することを前提としているが、開発・製造プロセスにおける温度、湿度、配合量、タイミング、といった細かな条件設定だけでなく、開発・製造プロセス時における「人間の手の動き」「視線の位置」「配合のタイミング」「混ぜる力と方向」といった、これまでデータ化するのが困難であった人間の「暗黙知」もデータ化する。さらに製造された素材の物性と相関を持たせてデータとして記録する。
 このようにIoTを活用すれば、「属人的なノウハウ」と言われてきた暗黙知を記憶することが出来るのではないだろうか。
 暗黙知をデータ化できれば、エンジニアの退職・転職による技術継承の断絶といった課題を解消できるであろう。継承された側のエンジニアは、データを参照することで従来と同様の開発・製造プロセスを実施し、従来どおりの素材を顧客に提供することが可能となる。

 このようにIoTを素材系産業の開発・製造プロセスに適用することで技術継承の断絶といった、日本企業が直面している課題を解決する。日本企業の高い競争力を維持し続けるために有効な手段ではないかと考えている。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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