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【組織の未来】女性活躍のための単純な処方箋 ①

2016年06月10日 坂本謙太郎


保育園の増設だけでは女性活躍は実現しない

 男女共同参画、女性が輝く社会などの言葉が飛び交っている。しかし、保育園に子供を預けるために膨大な書類を提出し、役所に働く必要性を認められなければならないという現実を見れば、これらはいかにも虚しく響く。

 これらは保育園を増設しさえすれば実現するものでもない。保育園に子供を預ける親(多くの場合は母親)は、残業をする同僚たちに遠慮しつつコソコソと定時退社をしなければならず、高評価・昇進は諦めざるを得ない。これが厳然たる事実である限り、子育て世代の女性が活躍することも、その先にあるダイバーシティの実現もあり得ない。

阻害要因は組織図にある

 先般国内外のいくつかの企業の組織図を見ていて、興味深い事実に気付いた。日本企業の組織図では、最小の「箱」の中に係長を筆頭に、数名の名前が並んでいる。担当業務もその「箱」ごとに割り振られており、そこに属する個人の担当業務は明確ではない。読者の方もぜひご自分の組織の組織図をご覧いただきたい。ほとんどの日本の組織がこのような形態になっているはずである。

 一方、海外企業の組織図を見ると、最小の「箱」には一人の名前と担当業務が書かれている。これは日本企業の現地子会社でも同じである。海外で「箱」に複数の名前が並ぶのは生産現場くらいで、ホワイトカラー組織ではこのようなことはまず起こらない。人員の採用も「○○の業務を担当する、○○の技能を有する者」という形で行われるから、日本企業も海外現地法人ではこのような組織図を描かざるを得ないのである。

図表1:日本型組織図と海外の組織図の違い


 この違いは単に組織図の表現方法の違いに留まらず、ワークスタイルの明確な差異から生じている。担当業務が明確であれば、業務をいつどのような方法でこなすのかは、各個人の裁量に任される。例えば、「自分は毎日4時には退社して、保育園に子供を迎えに行く。その代わり、子供を寝かしつけた後に自宅で2時間働く」、「子供を急遽病院に連れて行かなければならないので、午前の予定は繰り越そう」という調整が利く。また、「この時期は2週間休暇を取るから、その代わりここで頑張ろう」などという、年間を通じた計画の立て方も可能だ。要は決められた期日までに、決められた業務を的確にこなせればそれで良いからだ。

 これに比べると、日本型の組織では各個人はごく限られた裁量権しか持たず、いちいち上長に相談しなければ何も決められない。最小の「箱」に割り当たられた業務を係長の采配の下、複数名で分担している状況では「今日は何をしましょうか?」「もう帰っても大丈夫ですか?」というやり取りが毎日のように行われることになる。だから「上司が帰るまで帰れない」「休暇が取りにくい」という雰囲気が拭えない。我が国の有休消化率が低いのも、ホワイトカラーの生産性が低いのも、女性が活躍できないのも、詰まる所は組織図に象徴される組織の在り方、ワークスタイルの問題なのである。

組織図の書き換えがワークスタイル変革につながる

 有休消化率や残業時間などの指標を使って上長に「帰れ」「休め」と言わせたり、子育て世代の女性に特別な配慮をしたりするというのは、対症療法でしかない。そのしわ寄せを食う同僚が出てくるからだ。家庭を顧みず、あるいは、出産を諦めてしわ寄せを食った者が評価され、昇進するという実態を変えない限り、女性活躍も、未婚率・出生率の改善もあり得ない。

 極めて単純かつ明快な処方箋は、組織図を書き変えることだ。一つの「箱」に複数の名前が並ぶブルーカラー用組織図を捨て、一つの「箱」に一人の名前だけを書き、担当業務・責任・権限を明確にするべきだ。同時に人事評価システムも変える。上長は部下が費やした時間(インプット)を管理するのではなく、労働の成果(アウトプット)を管理し、プロセスは個人の裁量に任せることが望ましい。これによって、個々の社員の時間の使い方の自由度は格段に向上し、子育て世代の女性は(もちろん男性も)求められるアウトプットさえ出していれば、誰はばかることなく、保育園に子供を迎えに行くことができるようになる。

 24時間365日を会社に捧げることを前提とした均質的なワークスタイルを捨てない限り、女性活躍もダイバーシティもあり得ない。そして、日本の企業・社会に明るい未来を期待することも難しいのである。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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