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オピニオン

ギャップシニア参加型の商品開発秘話

2016年06月14日 山崎香織


 黙々と縫い物をする人の傍らで、完成した作品を手にいそいそと記念撮影をする人もいる。これはギャップシニア向けの手芸キット開発の一環で開催した手芸教室の一場面である。実は参加したシニアのほとんどは久しぶりに針を手にしたと言うが、とてもそうは見えない鮮やかな手さばきであった。最初は友人に誘われて恐る恐る参加した人も、終了後には2個目の材料を手に、うきうきと帰宅するほど楽しんでいただいた。

 日本総研が主催しているギャップシニア・コンソーシアムでは、このようにギャップシニアに直接商品に触れてもらいながら、生活の様子をうかがったり、商品そのものの改善点や新たなニーズを引き出したりする「開発ラボ」の実証活動を行っている。昨年度は、開発テーマの一つとしてホビーを取り上げ、ユザワヤ商事株式会社や専門職とともに実証を進め、手芸キットの開発・改善を行った。

 開発プロセスは(1)生活観察、(2)コンセプト構築、(3)プロトタイプ、(4)テストの4ステップをたどって実施した。まずは手芸講座の会場やシニアの自宅を訪れ、ギャップシニアへのインタビューや観察を行ったところ、裁縫は好きだが最近はボタン付けしかしていない、手芸をしたいが目や指がすぐに疲れる、洋裁の仕事を紹介してほしいといった声が次々と上がり、ニーズを発掘することができた。

 次のコンセプト構築では、実際に会って話をしたギャップシニアの方々を思い浮かべつつ、「この人ならこういうものに興味を持つかもしれない」、「あの人だったらこんな使い方をしそうだ」といった発想を膨らませて議論を進めた。その中から、「本人が自身の経験や身体状況、こだわりを踏まえて作り方を選べる」、「達成感を味わえる」というコンセプトに絞り込んだ。続いてコンセプトを具現化するため、ギャップシニアの特性を考慮しながらメーカーが手芸キットの試作品を制作した。あわせて作業療法士が工程分析を行い、工程ごとに必要なスキル、失敗しやすい点、道具、手順の見せ方などを整理した。

 手芸キットと説明書の試作品がそろった段階で手芸教室を開催し、ギャップシニアに実際に試していただいた。「針に糸が通らない」とつぶやいた参加者に糸通しを紹介したら喜んで使ってくださった瞬間もあれば、金具を開けられず四苦八苦する多くの参加者の様子も見られた。また作品を作りつつ、孫に何か贈り物をしたいなどの思いを引き出すこともできた。開発した商品(メタリックヤーン手芸で作るキーホルダー、動物のレザークラフト)は、介護施設向けのカタログ等を通じて現在販売されている。

 上記で示した開発プロセスは、実は一方通行ではなく、テスト結果を踏まえて制作手順や道具を見直すなど行き来しながら進んだ。それこそがギャップシニア参加型の商品開発のポイントであり、強みだと実感した。

 今年度はさらに開発テーマを広げて、ギャップシニアとの接点を活かした商品開発を浸透させていきたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。