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建設業界で女性活躍をさらに進めるためには

2016年05月30日 長谷直子


 現在、建設業における女性技能労働者の割合は3.0%と、製造業の平均値(30.0%)や全産業平均値(25.1%)と比べて極めて低い状況です(※1)。しかし、大学で建築や土木工学を学ぶ女性の割合は着実に増えており、土木建築工学科の学生に占める女性の割合は、1993年時点では9.4%だったのが、2015年には18.3%(※2)にまで増加しています。建築・土木・測量技術者における就業者の女性割合の推移を見ても、過去10年間でその割合は約1.5倍に増加しました。男性中心で、女性の活躍が遅れているイメージのあった建設業界ですが、新たな動きが出始めています。
 日本の建設業界を巡る状況を見ると、国内の建設投資は、1990年代後半以降減少傾向が続き、リーマン・ショック後には41.9兆円(ピーク時の約50%)まで減少したものの、近年では東日本大震災の復興需要やその後の景気回復などにより増加に転じ、2013年度には約50兆円となりました。一方、建設就業者数は1997年の685万人をピークとして減少傾向にあり、建設投資が増加に転じても就業者数は増加していないことから、労働者不足の状態が続いています(※3)。さらに近年では団塊世代の熟練技能労働者が退職し、労働者不足の問題が深刻化しています。このため、日本建設業連合会などの業界団体では、自らが旗振り役となって女性活躍推進の動きを加速させることで、建設業で働く女性技能労働者を増やし、建設技能労働者不足を補おうとしています。2014年には、業界団体として会員企業の「技術系女性社員の比率を5年間で倍増、10年間で10%程度に引き上げる」などの目標を掲げました。具体的な取り組みとしては、建設業で活躍する女性の愛称「けんせつ小町」を決定したり、建設業における女性の活躍をアピールしたりするため、「けんせつ小町工事チーム」の登録・紹介を行っています。また、会員各社がより実務的な環境整備を進めるために、女性が働きやすい現場環境づくりや設備等の整備のマニュアルなどの策定を進めています。
 こうした業界団体の積極的な旗振りの甲斐もあり、ゼネコン各社の女性活躍推進の取り組みは着実に進んでいます。よく耳にするのは、前述のマニュアルにも記載されている「現場の環境(女性用トイレ、更衣室、洗面所など)の整備」です。数年前までは、現場でこうした環境は整備されていないのが当たり前でしたが、最近ではCSR報告書等で女性用更衣室等を整備したという記載が多くなりました。ただ、建設業界でさらに女性活躍を進めるには、こうした設備面の改善だけでは不十分です。もちろん、現場の環境整備も進めなくてはなりませんが、実際に大手ゼネコンで活躍する女性技術者の話を聞くと、女性活躍推進を阻む本当の障壁は、「長時間労働・年功序列を前提とする働き方」にあると言います。
 例えば、本社部門でも未だに、「上司が帰らないと帰りにくい」、「自分の仕事が終わっても周囲が残業していると帰りにくい」といった職場風土が根強く残っている部署があるようです。チームで仕事をするという業種特性も影響していますが、自分より早く帰宅する部下を良く思わない上司の発言を耳にすると、育児等の理由であっても労働時間が短ければ自らの評判や評価に影響するのではないかと感じ、仕事と家庭の両立をあきらめてしまう社員も出てきかねません。成果や生産性を重視せず、長時間働くことができる人が評価される慣習や、残業している社員を頑張っていると捉える上司の価値観、特別な理由が無い限り休暇を取りづらい、といった職場風土をまず是正することが必要でしょう。
 また、年功序列型の人事制度なども、出産や育児等で一時的にキャリアが途絶えがちな女性のキャリアアップを阻む要因になっていると言います。建設業における女性活躍推進の障壁は、実は、現場環境が整備されていない、といった建設業特有の問題に限らないのです。24時間いつでも働くことができる、というこれまで多数派だったワークスタイルを支持し、短時間勤務やその他の少数派のワークスタイルを認めようとしない個々人の価値観を変革するよう企業は働きかけつつ、男女を問わず長時間労働を是正することや、年功序列を良しとする旧態依然とした働き方を変えることこそが、建設業で女性活躍を進める第一歩ではないでしょうか。
 建設業で女性の活躍が進むことは、ゼネコン各社にとってもメリットをもたらすと考えられます。女性は一般的にコミュニケーション能力が高く、施主とのコミュニケーションも円滑に進めることができると言われますし、育児と仕事を両立する女性社員は時間の有限性を強く意識することから、所定労働時間内で効率的に業務を進めるスキルに長けている可能性があります。建設技能労働者不足を補う以外にも、建設業で女性活躍を推進する意義は十分にあるはずです。我が国建設業の今後の発展のためにも、まずは「長時間労働・年功序列を前提とする働き方」の改革を進めていくことを期待します。

※1 : 総務省「労働力調査(平成27年度)」より算出。技能労働者とは、職業分類項目のうち、「生産工程、輸送・機械運転、建設・採掘、運搬・清掃・包装等(その他の運搬・清掃・包装等)」の従事者とする。
※2 : 文部科学省「学校基本調査(平成27年度)」より算出
※3 : 日本建設業連合会労働委員会「女性技能労働者活用促進に関する中間とりまとめ(平成26年2月20日)」より

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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