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都市の未来像の描き方

2016年04月25日 市岡 敦子


フォーサイトと都市の未来 ―英国における取り組み―

 近年欧州においては、「フォーサイト」という未来予測手法が、都市における将来ビジョンの策定に適用されつつある。
 フォーサイトとは、欧州委員会によると、「関係者が参加して、体系的に未来に関する知見集約と中長期ビジョン形成を行うプロセスであり、現時点での将来に向けた意思決定や行動を起こすもの」と定義されている。この手法では、未来を「考え、議論し、創造する」ことが重要であるとされる。したがって、未来を予測するだけでなく、議論した事項の具体化に向けた活動もが、「フォーサイト」に含まれるものなのである。フォーサイトでは、文献調査や「フューチャーワークショップ」(関係者で集まって未来を検討するワークショップ)などの様々な手法が活用される。具体的にどの手法が用いられるかは場合によりけりで、複数の手法が組み合わされることが多い。
 英国では、ビジネス・イノベーション・技能省政府科学局の中にフォーサイトの担当部署がある。この部署では、20~80年程度先を見据えた長期的な課題を、プロジェクトベースで数年程度かけて検討するフォーサイトプロジェクトを実施している。彼らの2014~15年の研究テーマが、50年後を対象とした「都市の未来(Future of cities)」であった。人口、貿易、商業、文化的・社会的生活が集積する「都市」という場所は、英国全体の未来を決める重要な場所であるという認識から、都市をテーマとして選んだという。
 「都市の未来」という研究テーマにおいて議論する内容は、都市インフラや都市経済等、多岐にわたっている。都市の将来ビジョン策定(City Vision)に関する活動もそのひとつである。先述のフォーサイトの考え方を活用しながら、政府科学局が支援する形で、6つの都市で都市の将来ビジョンが検討されている。そのいくつかの検討結果および策定経過が公表されている(次表参照)。

表 フォーサイトプロジェクトが支援した都市の将来ビジョンの例

※上記4都市のほかに、バーミンガムとウェストミッドランズ(Birmingham and West Midlands)、
マンチェスター(Manchester)でも同様のプロジェクトが実施されている。


 これらの都市の将来ビジョンには、策定の過程に次の4つの共通点がある。①様々なステークホルダーが検討過程に関与している点、②各々の都市の特性や事情に合わせた検討手法を採用している点(大学参画の有無等)、③あり得る未来を複数想定して関係者間で共有している点、④一度決めた未来像を可変とすることで、逆に不確実性の高い未来への対応力を高めようとしている点、である。
 その中で最も特徴的なのは3つ目の、「あり得る未来を複数想定している」点だ。目指す都市の将来ビジョンを唯一のもの、固定的なものとしない前提が、多種多様で個性的なアウトプットにつながっている。
 例えばニューカッスルでは、「現状の社会経済トレンドが続く場合」、「ロンドンが崩壊し、国の経済を再度平衡させる必要が出る場合」等のケース設定を実施した上で想定される未来を複数公表している。これは、シナリオプランニングと呼ばれる手法を援用している。
 また、レディングでは、いったん「スマートでサスティナブルな都市」という未来像を設定し、地域のステークホルダーを一同に集めたワークショップでその未来へ至る方法を決定した。しかし将来ビジョンは「マスタープランではなくこれから発展するものである」という考えのもとで、設定した未来像と一緒に議論の過程も公開、市民からの意見徴収を現在も引き続き行っている。
 これらの「未来を単一のものと考えない」視点は、未来像の具体化に向けた活動を志向する、フォーサイトの考え方を前提としているからこその特徴と言えるだろう。未来を一つに設定してそれを「当てに」いく行為が重要なのではなく、関係者で「想定して議論して作りだす」、その一連の過程が重要だと認識されているのだ。
 政府科学局は、「都市の未来(Future of cities)」プロジェクトの目的を、「都市に長期的な未来に対する行動を起こさせること」としている。そのため、英国国内の都市がフォーサイトの考え方を利用して都市の未来を検討出来るように、プロジェクトのレポートをこの2016年4月に公開した。このレポートには、上記の6つの都市における取り組みやその他の事例から得られたポイントが、他の都市でも適用できる形で一般化して収録されている。このプロジェクトを通して、多くの都市でフォーサイト手法を活用した「都市の未来」の検討が実施されるようになっていくだろう。

日本の都市の未来を考える

 一方、日本の都市の未来は、誰に、どのようにして描かれているのであろうか。都市全体に対して幅広い権限を有している主体は、自治体である。したがって、自治体が都市の未来を考える上で最も適当な主体である。実際、自治体の活動の中で、「総合計画」という未来の都市のあり方を示した計画が存在する。
 総合計画とは、行政運営の長期的な指針となる最上位計画であり、十数年後のその都市の目指す姿が描かれる。また、総合計画には、さまざまな政策が網羅的に記載されている。一方、総合計画は行政組織内の事業の進行管理という側面が強い。一度設定された政策や計画が大きく変更されることはまれであり、市民の意見を反映させるための変更等はほとんど行われない。
 本稿で紹介した英国における事例では、国の支援のもと、フォーサイトの手法を取り入れながら各都市が多種多様な方法で都市の未来像を模索していた。また、未来を単一のものととらえることなく、合理的な意見があれば計画を柔軟に変更する姿勢がみられる。
 都市においては、インフラ等のハード面から教育や文化、コミュニティ等のソフトな面まで様々な要素が複雑に絡み合っている。この複雑性を前提に考えると、都市の未来を考え作り上げる際に未来を単一のものと設定することは避けるべきだ。複雑極まりない都市にこそ、一度決定した単一の未来に固執せず、未来は多数の関係者で考え、議論し、協同で作り上げ続けていくものとするフォーサイトの考え方が適している。わが国の都市においても、未来の多様な可能性を捉えなおすことから始めることが必要なのではないだろうか。
以上




※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません


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