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【シニア】
第3回 ギャップシニア市場は公民連携で拓ける

2016年02月09日 青島耕平


 前回は、要介護シニアと元気シニアの間にいる高齢者(ギャップシニア)をターゲットにした商品やサービスはほとんど存在しないという話をしました。しかし、公的サービスにおいては、ギャップシニアはすでに明確なターゲットとして位置づけられています。具体的には、「要支援者」あるいは「二次予防事業対象者」と呼ばれる高齢者で、介護保険制度の中で要介護認定や二次予防チェックリストと呼ばれる方法で認定がなされ、それぞれの状態にあった公的サービスが受けられる存在です。

 2015年に、これらギャップシニアの制度上の位置づけが大きく変わる介護保険制度の改正が実施されました。要支援者を対象にした予防給付の一部(訪問介護と通所介護)が、保険給付ではなく、「介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、総合事業)へ移行されることとなったのです。
 この改正が目指すところは、「地域包括ケアシステム」の実現です。「地域包括ケアシステム」とは、高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らし続けられるよう、「医療」「介護」「住まい」「予防」「生活支援」が一体的に提供される仕組みを作るという政策目標であり、そのために「自助」「互助」「共助」「公助」のバランスの取れた取り組みが不可欠との考え方に基づいています。

 総合事業への移行は、これまで介護保険事業者が全国一律で提供していたサービスを、地域の特性に応じて、NPOやボランティア、介護保険事業者以外の民間企業等の多様な主体が参画して、より柔軟なサービスに変えていくことを目指しています。その意味で、「共助」や「公助」に比較的重点が置かれていた介護サービスに、「自助」や「互助」の取り組みを積極的に導入しようという視点が導入された点は注目されます。
 民間の側からすれば、行政の側のこうした動向は、「自助」「互助」サービスの新たな市場創出という意味で大きなインパクトを持ちます。一方で、行政の側も、総合事業によって民間の参入が進むことで、多様なサービスの確保、住民への多様な選択肢の提供が実現でき、双方のメリットが生まれます。総合事業は、こうした公共と民間の役割分担の再定義と新たな公民連携の契機をもたらすものと考えられるのです。

 それでは、ギャップシニア市場創出に向け、具体的にどのような公民連携のあり方が必要となるのでしょうか。翻ってみれば、私たちがギャップシニアに着目したのは、この市場が民間市場として有望でありつつも、これまで十分に認識がされてこなかったことが出発点です。これまで、ギャップシニアは公共サービスの対象として認識されており、ユーザーの特性やニーズに関する情報は公共に「独占」されていました。まずは、こうした公共と民間の情報の格差をなくし、公共から民間へ適切な方法でギャップシニアの情報が共有されることが必要です。一方で、公共の側にとっては、これまで「公助」や「共助」によって担われていたギャップシニアへのサービスを、突然「自助」「互助」へ置き換えるといっても、民間が提供するサービスの探索、調達が容易にできるわけではありません。民間の側の多様なサービスの存在を、公共が把握しているギャップシニアの特性やニーズに適切につなぎ、マッチングしていく機能が今後不可欠になると考えます。
 こうした情報連携およびマッチングの機能を実装した公民連携の仕組み構築が、ギャップシニア市場創出の条件に他なりません。換言すれば、ギャップシニア市場創出の成否は、公民連携の深度にかかっているのです。

<バックナンバー>

「第1回 ギャップシニアとはどんな人か」
「第2回 ギャップシニア市場を創造する 」


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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