ホーム> 経営コラム> オピニオン> 「電力自由化」で見るアジア各国と日本 ~需要家視点の対応策検討を~

直前のページへ戻る
オピニオン

「電力自由化」で見るアジア各国と日本 ~需要家視点の対応策検討を~

2015年11月24日 新美陽大


 ここしばらく、タイ・ベトナム・中国といったアジア各国と日本とを、電力を中心とした社会インフラを通じて「横串」に見る機会を得ている。これらの国々に共通した話題の一つは「電力自由化」だ。

 タイは、東南アジア諸国の中でももっとも早く電力自由化が進められた国の一つである。供給力不足の状況に対して、政府はIPPやSPP・VSPPといった、民間活力を発電事業に活用する制度を整えるなどした結果、多くの民間企業が発電事業へと参入し、需給状況も大幅に改善した。ただ、最新の電力開発計画(PDP 2015)では、天然ガス中心の現状から、石炭や再生可能エネルギーを中心としたポートフォリオに移行させる方針が示されており、民間企業が参入している天然ガスによる小規模発電事業の市場については、今後の見通しは不透明となっている。
 ベトナムにおける電力自由化は、まさにこれから幕開けを迎えようとしている。政府は、これまで電力公社が独占してきた電力市場を、2019年を目途に民間事業者に開放する方針であることを発表した。ベトナムは長く電力の供給力不足に悩まされており、近年の急速な電源開発により以前よりは停電の回数も少なくなってきたものの、安定的な需給バランスの達成には道半ばと言える。この状況を打開する策として、電力自由化が検討されているのだ。
 すでに多くの日本企業が生産拠点を置いており、特に自動車製造業は日本・北米に次ぐ規模の生産基地となっているタイ、安価な電力価格が享受できるベトナムには日本をはじめ外資企業の進出が続いている。電力は、工場での生産活動において欠かせない、基本的なインフラの一つである。製品の品質につながる電力品質の維持はもちろんのこと、価格も製造コストとして直接跳ね返ってくる。電力を取り巻く制度に関しては、それぞれの国の情勢やエネルギー事情の変化により変更されるリスクを排除できない。高品質な電力を適切な価格で利用できるよう、需要家側では制度動向を確認しながら最適なインフラ設備を組み合わせて整えることが重要だ。

 中国においても、電力自由化は長年の検討課題となっている。2002年に「電力体制改革」により発送電分離がなされたものの、送配電事業者の役割は国家電網と南方電網の2大国有企業が担っている。巨大な市場であることを十分認識しているため、中国政府は慎重に制度変更の検討を進めるだろうが、自由化への流れは不可逆的であろう。
 中国は、世界における巨大市場であると同時に巨大生産基地でもあり、日本企業の進出は1万社を超える。また、急速な経済発展とともに電力需要も伸び続けており、いまや世界最大のエネルギー消費国となった。これを背景に、中国政府では供給力の確保とともに、国として省エネに取り組む姿勢を鮮明にしている。日頃から徹底した省エネに取り組んでいる日本企業は、中国国内や欧米の企業と戦うだけの十分な競争力を有している。今後の中国市場では、省エネ技術と電力自由化による制度変更を巧みに組み合わせることで、品質と価格を両立していくことが求められる。

 そして日本においては、電力自由化は段階的に進められてきており、来年4月に小売事業にまでその範囲が広がることとなっている。多様な料金プランが選択できるようになり、われわれ消費者にとっては電力を購入するための自由度が広がることが期待されるが、ここで注目したいのはいわゆる地産地消型の「地域エネルギー」だ。地域の人材や資金を活用して設備や体制を整え、地域の森林が有する間伐材などの木質バイオマス資源、あるいは自噴ガスや地熱などの地域固有の資源を利用して、電力や熱などのエネルギーを地域の一般家庭や企業に販売することで、地域内の経済循環を活発にすることが可能となる。重要なのは、需要家である地域住民や企業にどのように資金が循環するのか、すなわち利益が地域に還流する仕組みが整っていることだ。

 電力自由化を議論する際、ともすれば制度側・事業者側からの視点で検討がなされることが多い。しかし、制度変更による利益はすべての関係者にもたらされるべきであり、その意味では需要家側の視点を欠くことはできない。電力自由化によって、一般家庭や企業などの需要家はどのような利益を受けられるのか、また自由化によってどのような新しい工夫や対応策が可能となるのか、という視点である。
 電力など社会インフラに関する検討の際には、関連制度や事業スキームの確認はもちろんのこと、需要家側のニーズと解決策、そして具体的に得られる利益を常に意識しながら、最適な解決策を導き出していきたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。