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「子どもの参加」を次世代育成のキーワードに~(1)自己肯定感の醸成~

2015年10月01日 村上芽


自己肯定感の必要性
日本の子どもは、自己肯定感が低いと言われている。平成26年度版「子ども・若者白書」では「日本の若者は諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が低く、自分に誇りを持っている者の割合も低い」と述べている(注1)。この調査では13~29歳までの、日本を含む7カ国の若者を調査対象としている。また、古荘純一氏は著書『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』で、自尊感情を調べるためにQOL(Quality of Life)尺度を開発し、日本の子どもの自尊感情が低いことを、特にドイツやオランダとの比較で示している(注2)。同書でも紹介されているユニセフの2007年調査では、日本の15歳が自分に関するネガティブな表現に同意する割合が24カ国中最も高かったことを明らかにした(注3)。
自己肯定感とは文字通り、自分について肯定的に捉える感覚であり、上述の調査によると「自分自身に満足している」「自分に長所がある」「自分はいろいろなことをうまくやれる」といった表現に同意すれば自己肯定感が高いという結果になる。
他方、一見、別の観点になるが、イノベーションに関する文献を調査すると、革新的な事業を起こすなどしてイノベーターと呼ばれて成功している人たちに共通する1つの要素に、自己肯定感があると言われている。例えばトニー・ワグナーやダニエル・ピンク、社会起業家を紹介する渡邊奈々、町田洋次、シンシア・スミスなど、数多くの文献で主人公が自分の力を信じ、力を出し尽くす話が描かれている(注4)。そればかりでなく、実際に企業経営者や何か事業で成功を収めた人の話を聞いて、自分自身や、自分のやっていることを信じる力の強さを感じたことのある方は多いのではないだろうか。
自己肯定感とイノベーターの力強さを組み合わせて考える場合、自己肯定感を強いからと言ってイノベーターに育つという因果関係は導けないものの、自己肯定感の存在は潜在能力の発揮や苦しい場面での踏ん張りに大いに役に立つという想定が可能ではないか。
イノベーターを創出するという具体的な目標を全ての子どもに求めないとしても、ひとりひとりの子どもが内発的に、やる気を出して自分の役割をまっとうすることや、ストレスをはじめとする現代的なプレッシャーに負けずにいられることは重要であるはずだ。そこで、日本ではこれまで以上に、子ども時代から自己肯定感を育む取り組みを強化する必要性があることを本稿では論じたい。

「子どもの参加」への注目
 まず、自己肯定感を育む取り組みが海外にはあるのかを見てみよう。そして浮かび上がってきたのが「子どもの参加」というコンセプトである。
「子どもの参加」とは何か。「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」により、国際的に子どもに認めるべきとされる権利の一つに、「自由に自己の意見を表明する権利」がある。子どもの権利条約は、18歳未満の者にも大人と同様の人権享有主体としての地位を保障しようとする条約である。条約の文言では、児童には「特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において」、意見を聴取される機会を与えられるとされる。つまり、大人がまず「子どもの意見を聴くこと」が重要であるとしている。さらに、子どもの意見を聴く(積極的に、注意深く、心で聞く)ことを通じて、子どもに関係のある意思決定に際しては当事者である子どもの意見を考慮せよ、と言っている。日本では参政権の年齢引き下げが行われたばかりだが、さらにそれより低年齢であっても、自分の意見を形成する能力ある子どもについては意見表明の機会が与えられている。このように国際的には大人は「意思決定への子どもの参加」を認めるべきであると考えられているのである。本稿では、これを「子どもの参加」と呼ぶ。

「子どもの参加」と自己肯定感
では、「子どもの参加」は自己肯定感につながり得るのだろうか。「子どもの参加」の“効果”を純粋に測定しようとすると、参加した子どもと参加しなかった子どものグループに分けて差分を測っていく方法が想起される。しかし、保育や教育の実践上の制約や、倫理的に受容されにくい状況のため、純粋な効果に関する先行研究はないに等しいのが現状といえる(注5)。ただ、参加を通して子どもたちがどのような能力を得たか、という点については、手がかりを得ることができる。船越美穂氏によると、ドイツ・バイエルン州は幼児期における子どもの参加を州法で保障しているが、同州の教育に関する計画のなかで、いくつかの効果を挙げていると報告している。参加を通して他者と話し合う十分な機会を与えられることによる、話し合いの文化の発展や言語能力の向上、また、民主主義のルールへの導きと心構えといった初期の政治教育としての成果などである。自己肯定感の醸成といった表現は見当たらないものの、「他者の見解を認め、尊重する」と述べられており、子どもは相互に意見を聴きあい、自分の意見が重視されていると勇気を出してますます話すことに喜びを持つと分析されている(注6)。また、古荘純一氏によれば、子どもの自尊感情(自己肯定感を含む)のために重要な要素として、「親の受容的な態度」「子どもの意見を尊重する態度」が挙げられており、子どもの意見を聴くことが自己肯定感を醸成し得るというパスを想定することができる。

国内の状況
他方、日本での「子どもの参加」の現状を見てみると、この考え方自体が、国内ではほとんど浸透していない。例えば、子どもの権利条約を参考にするなどして「子ども条例」等の名称の条例を有する自治体でも、策定過程では「子どものわがままを聞く必要はない」といった批判的・抵抗的な意見を多く受け取っているという。平成27年度版の「子ども・青少年白書」では「社会形成・社会参加に関する教育(シティズンシップ教育)の推進」という項目が設けられているが、「教育」と名前がついているとおり、法律や契約、司法参加に関する知識の習得や、法律家の養成、金融経済教育、租税教育などが扱われており、「子どもの参加」に関する内容とは言いがたい。また、「意見表明機会の確保」施策として「青少年意見募集事業」や「少年の主張全国大会」などが紹介されているが、どのように意見が活用されたのか・されなかったのかという具体的な情報はない。東日本大震災からの復興に関しては、例えば石巻市の「石巻子どもセンター」の企画・デザインに中高生が参加した例(注7)があるが、全国的に広がっている状況には決して見えないのである。

ドイツにおける事例紹介
 残念ながら、「子どもの参加」は自己肯定感の醸成につながると考えられるにもかかわらず、日本では浸透していないコンセプトなのである。では、海外の先行事例において推進者らがどのように具体的に「子どもの参加」を実践し、現場はどのような効果を感じているのか、筆者自身が調査した結果を次に紹介したい。1回目はドイツ北部のシュレースヴィッヒ・ホルシュタイン州・キール市の保育所、2回目は同州イツェホー市の青少年活動を取り上げる。これらはキール専門大学の教授であり同州に基盤を置く「子どもの参加研究ネットワーク」の主宰者であるクナウワー氏の協力を得て実施したものである。

(注1)内閣府、平成26年度版「子ども・若者白書」。平成25年度「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」を取り上げている。
(注2)古荘純一(2009)『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』光文社
(注3)ユニセフ(2007)「イノチェンティレポートカード7」
(注4)トニー・ワグナー(2014)『未来のイノベーターはどう育つのか』英治出版、ダニエル・ピンク(2010)『モチベーション3.0』講談社、渡邊奈々(2005)『チェンジ・メーカー』日経BP社、町田洋次(2000)『社会起業家』PHP研究所、シンシア・スミス(2009)『世界を変えるデザイン』英治出版
(注5)キール専門大学クナウワー教授らによる聞き取り。
(注6)船越美穂(2012)、「幼児期における民主主義への教育(Ⅱ)-「バイエルン陶冶-訓育計画」における「参加」(Parizipation)の思想と実践-」、福岡教育大学紀要第61号第4分冊
(注7)子どもの権利を推進するNGOの1つであるセーブザチルドレンジャパンなどの協力により、2011年7月から2013年6月の着工までの約2年間、「石巻市子どもまちづくりクラブ」に参加する子どもたちが主体となって、「子どもセンター」の企画・デザインに取り組んだ。

以上

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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