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ロコモ予防・対策 ビジネス化の鍵は「しない・できない理由」の紐解きにあり

2015年09月14日 紀伊信之


高まるロコモティブシンドロームへの関心
 急速な高齢化の進展によって、新たな国民病として注目されるのが「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」である。ロコモとは、加齢などに伴って「筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器に障害が起こり、『立つ』『歩く』といった機能が低下している状態」(ロコモチャレンジ!推進協議会)を指す。進行すると、介護状態になるリスクが高くなる。
 膨張する社会保障費を抑制するためにも、ロコモを防ぎ、高齢者の介護リスクを軽減することの社会的な意義は大きいが、そのためには、まずロコモという概念の一般消費者への浸透が必要である。厚生労働省も、国民健康づくり運動「健康日本21」において、2022年までにロコモの認知度を80%までに向上させる目標を掲げており、日本整形外科学会と博報堂、各種協賛企業で構成される「ロコモチャレンジ!推進協議会」や各自治体がロコモの認知拡大・普及啓蒙に取り組んでいる。
 さらに、日本整形外科学会では、2015年5月にロコモの進行度合いを判定する臨床判断値を策定し、公表した。これは、下肢筋力を調べる「立ち上がりテスト」、歩幅を調べる「ステップテスト」、身体状態・生活状況を調べる質問票「ロコモ25」の三項目からなる「ロコモ度テスト」の結果から、ロコモの進行状況を「ロコモ度1,2」といった形で判定を行うものである。かつてのメタボと同様、客観的な指標が設定されたことで、消費者も自分のロコモに対するリスクを知ることができるようになる。これによって、今後ますますロコモへの注目・関心は高まっていくと予測される。
 これらの動きに加えて、関連する商品・サービスが登場したり、ロコモについてメディアで取り上げられる機会が増えたりすることにより、一般消費者にもロコモという概念が徐々に浸透しつつある。一般社団法人「運動器の10年・日本協会」が2015年5月に実施した「ロコモティブシンドローム認知度調査」によれば、ロコモについて言葉の意味も知っている「理解」レベルは18.3%、言葉は聞いたことがある「認知」レベルは44.4%となっている。2014年3月に実施された同種の調査(ロコモチャレンジ!推進協議会「2014年度ロコモティブシンドローム生活者意識全国調査」)での認知度は36%であり、1年で10%近くも認知度が上がったことになる。とりわけ70歳以上の女性では認知度が7割を超えるなど、関心の高さがうかがわれる結果となっている。

ロコモへの関心の高まりをビジネスチャンスとするには
 こうしたロコモへの関心の高まりをとらえ、商機につなげようとする民間企業が増えているが、大きな成功を収めている例はまだ少ない。
 要因の一つとして、ロコモ予防の基本が筋力(特に下肢筋力)の向上と、筋肉・骨量を増やす栄養成分の摂取であるため、「散歩・ウォーキング」や「日々の食事バランスに気を付けること」といった「お金をかけない予防法」にとどまり、あえてプラスαの商品やサービスを利用・購入しようとする消費者は限られることが考えられる。
 特に運動に関しては、高齢者には「健康維持には運動が必要」という意識を持つ人が多く、女性は年齢が上がるほど「毎日散歩や運動をする」人の割合が高いというデータもある(㈱ジーエフ「シニア・高齢者の健康意識とロコモティブシンドロームに関する調査」)。また、文部科学省が毎年実施している「体力・運動能力調査」の2013年度の結果では、65歳以上の高齢者の運動能力が過去最高に達したという。つまり、「健康や運動に関心の高い人はすでに何らかの取り組みをしている」のである。
 従って、ロコモ予防・対策ビジネスでは、「予防・対策を十分にしていない」消費者に対して、お金を払ってでも利用・購入したいと思える「付加価値」を提供することが極めて重要である。
 例えば、コナミスポーツ&ライフが高齢者向けに展開している運動スクール「OyZ(オイズ)」では、できるだけ敷居を下げることで、それまで運動習慣も乏しく、「スポーツクラブ=若い人、運動が得意な人のためのもの」と利用を敬遠していた高齢層の獲得に成功している。具体的には、運動の内容をステップ台やいすを使った誰でも取り組みやすいものとしているほか、通常は月会費に組み込まれている温浴施設の利用を別料金とし、スクールに来て運動をしてそのまま帰ることができるようにして気軽さを演出している。また、あえて同じ曜日、同じ時間で運動を行う「スクール形式」をとることで、利用者が規則正しい生活を送ることができるようにするとともに、同じ仲間と運動できるコミュニティ形成の効果も狙っている。さらに、高齢者は運動能力や痛みの有無で個人差が大きいため、1回の定員を15名に絞り、毎回同じトレーナーが指導を行うことで、各自に合った適度な運動が行えるなど、「自分一人で行うだけでは得られない付加価値」の形成が図られている。結果として、2012年10月に9施設で試験的に始められた「OyZ」は、現在では全国100施設以上に展開されるまでになっている。
 上記のコナミの例のような運動消極層に加え、今後はさまざまな業界で「痛み等により、運動などの予防・対策をしたくてもできない」層をターゲットとした商品・サービスの開発も有効だろう。シニア女性の半数以上が膝の痛みなど「歩行について悩みや不安を持っている」(ワコール「シニアの“歩くこと”に関するアンケート調査」)というデータもあるほど、この層のボリュームは大きいからである。
 ロコモへの関心の高まりをビジネスチャンスとして生かすには、高齢者が「対策をしない、できない」理由をひも解き、それを払拭する商品・サービスの開発することが必要となるだろう。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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