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介護事業における将来戦略策定と組織対応力強化への提案
~シナリオ・プランニング手法の活用可能性について~

2015年08月24日 福田隆士


介護事業で将来の戦略を描くことは不要なのか
 「介護は規制業種だから将来の戦略を立てても仕方ない……」、介護事業の経営に携わる方と話をすると、少なからずこのような声を聞くことがある。介護事業は、介護保険制度改正や報酬改定といった環境変化に大きく影響されるものであり、今後も制度改正や報酬改定は定期的に実施される。そのため、実行している施策が大幅に変わってしまう、予定していた取り組みを急きょ休止せざるを得ないなど、中長期の戦略を描くことにあまり意味を感じないということにつながるのであろう。
 しかし、介護事業者は将来の戦略を描く必要がないのかと問われれば、決してそうではない。上場している事業者であれば当然に中長期の戦略やビジョンを打ち出すことが求められるし、非上場の事業者であっても金融機関や取引先等のステークホルダーからは将来の戦略や方向性を明確にすることが期待される。また、近年、介護業界は人材の確保に苦慮しているケースが多く、人材を惹きつけ、定着を図るためにも、事業者の将来の方向性を明示していくことは非常に重要である。

不確実な将来にいかにして対応するのか
 介護事業は法規制の影響が大きく、その改正等が定期的に実施されるため、将来の不確実性が高く、不透明な部分が大きい業界の一つである。そのため、10年先、20年先の未来を予測することは困難を極めるだろうし、そのような環境において将来の戦略を描くことは非常に難しいことである。
 しかし、不確実・不透明な環境下においても、将来に備えることは不可能ではない。将来を予見し、それに対応した戦略を策定するための手法の一つとして、「シナリオ・プランニング手法」がある。シナリオ・プランニング手法は、石油メジャーであるロイヤル・ダッチ・シェル社が石油危機を乗り切る際に活用したことで広く知られた手法である。この手法では、不確実な一つの未来を予測するのではなく、想定される複数の未来を設定、それぞれの影響を予測し、方策を検討する。
 将来の業界環境を正確に予測することが難しい介護事業であるが、情報収集・分析や組織内での議論等を通じて、いくつかの想定される未来を導くことは不可能ではない。

シナリオ・プランニング手法は介護事業においても有効
 シナリオ・プランニング手法を活用した戦略策定を実践するうえでの、基本的なステップと要点はおおむね次の図表のように整理できる。介護業界の法規制等の検討は公で行われることが多いため、情報は集まりやすく、その影響についての想定もしやすいと考えられる。そのため、介護事業は比較的シナリオ・プランニングが実践・適用しやすいのではないだろうか。

<シナリオ・プランニングを活用した戦略策定ステップと要点(例)>


出所:日本総研作成


 次の図表は、一例として通所介護を取り上げ、簡易的に適用したものである。現在の業界動向等を鑑みると、やや飛躍がある内容かもしれないが、シナリオ・プランニングを実践する際は、現状の延長から脱却して幅広い可能性を検討することが重要である。できるだけ多くの可能性を挙げることで、不確実な将来への対応力を高めていくことにつながるだろう。今後生じる変化に他の事業者に先駆けて対応することができれば、その効果は決して小さくはないはずである。
 例えば、新総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)への対応は事業者にとって避けて通れないものであるが、自治体の動き等の外部動向に大きく左右されるものである。このようなテーマについてもシナリオ・プランニング手法の活用が有効ではないだろうか。

<シナリオ・プランニングの実践イメージ(通所介護の例)>


出所:日本総研作成


将来戦略を描き、変化に強い組織を目指せ
 介護業界は団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて、厚生労働省が推進している地域包括ケアシステム構築に向けて進んでいくことになる。さらに、2025年以降は高齢者人口の減少が予想され、業界としてはじめて全体の利用者の減少が見込まれる。したがって、介護事業者は今後ますます厳しくなる競争環境を勝ち残っていく必要がある。厳しい環境下で競争を勝ち抜くためには、ビジョンを明確にし、そこに向けた筋道をしっかりと描き、着実に推進するための入念な準備を進めることが重要である。
 本稿では、不確実な将来における戦略策定のための方法の一つとしてシナリオ・プランニング手法を推薦した。変化が多く、その影響も大きい業界であるからこそ、シナリオ・プランニング手法による戦略策定の効果が大きいのではないかと考える。ただし、シナリオ・プランニングはあくまで手法である。それを実践するのは人であり、組織である。シナリオ・プランニング手法を活用した戦略策定を通じて、人材の意識を変え、変化に強い組織を作り上げるための基礎を作っていくことが非常に重要である。
 世界でも例を見ない高齢社会を迎えた日本において、介護サービスは無くてはならないセーフティネットである。持続的、永続的に事業を続けるためにも、今、将来について真剣に考え、議論し、戦略を描くことが事業者にとって必要である。
以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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