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介護保険外サービスの事業化に向けて
生活支援サービスは「仕組み」で勝負せよ

2015年08月03日 紀伊信之


介護サービス事業者に広がる保険外サービスへの取り組み
 高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、住まい、医療、介護、生活支援等が包括的に提供される地域包括ケアシステムの構築に向けた動きが各地で加速している。その中で、重点化・効率化が求められる公的介護保険サービスを補うものとして、生活支援等の保険外サービスへの注目が高まっている。
 その有力な担い手として期待されるのが、公的介護保険サービスを提供している介護サービス事業者である。顧客として要支援・要介護者とすでに接点を持っており、保険外サービスも手掛けることで、高齢者の生活を包括的に支えられる可能性が高いためである。介護サービス事業者としても、自らサービス内容や価格を設定でき、制度・報酬改定による影響を受けない保険外サービスを展開することの経営的な意味は大きい。
 実際、介護サービス事業者の約半数は、生活支援(保険外)サービスの提供にすでに取り組んでいる(弊社「介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に関する調査研究事業」平成26年3月)。

ターゲット拡大の必要性 -介護サービスの既存顧客頼みの限界-
 しかし、保険外サービスを介護報酬改定の影響を軽減できるほどの事業規模にまで育成できている介護サービス事業者は今のところ極めて少ない。大手の事業者であっても、売上の規模でみれば、介護保険サービスの数%やそれ以下といったケースが多い。それは、事業者の多くが、介護保険サービスの延長で、既存の介護保険サービスの顧客に対して、公的保険でカバーされない家事支援や付き添い等を手掛けるのにとどまっているためである。 
 介護保険サービスは「少ない数の顧客に対して、高い単価をとる」ことで成り立つビジネスの典型である。100億円を超える規模の事業者でも顧客数(利用者数)は1~2万人程度にすぎない。その中で100%自己負担となる保険外サービスを利用できる顧客はさらに限られるため、既存顧客のみを対象にしている限り、事業規模はおのずと小さいものにならざるを得ない。
 従って、保険外の生活支援サービスをまとまった規模の「事業」に育てたいなら、自社の既存顧客以外にも、ターゲットを広げることが必須となる。

生活支援サービスは「仕組み」で勝負せよ
 ただし、自社の既存顧客以外を狙う場合、家事代行やハウスクリーニング等の専業大手も含めて、競合がひしめいている。とりわけ、家事代行分野は成長市場として注目が高まっており、近年、佐川急便、ヤマト、リクルートグループ、小田急電鉄など、さまざまな業種から参入が相次ぐ激戦市場である。
 この中で、いかに他社と差別化し、自社ならではのポジションを確立できるかが介護サービス事業者の多くが感じている課題であろう。
 ここで留意すべきは、家事代行のような分野では、「商品」自体で大きな違いを出すことは難しいということである。「定期利用で2時間○円、スポットで1回2時間○円」あるいは、「お掃除○カ所で○円、食事のご用意で○円」等、おおむね、どの会社もサービスメニュー自体に大差はない。仮に面白いニーズを発見し、メニュー化できたとしても、そのメニューの人気が出れば出るほど、(大手の)他社にまねされる可能性も高くなるであろう。「商品」で勝負をするのには限界がある。
 そこで筆者が重要と考えるのは、「仕組みで勝負する」という発想である。
 一つ目に重要なのは「顧客を獲得する仕組み」である。介護サービス事業者が顧客拡大を図ろうとする場合、いきなり共働き等の若年層を狙うより、要介護・要支援の手前の層(ギャップシニア)や元気シニアを狙う方が自社の持つノウハウや強みが活かせる可能性が高い。 ただし、この層を獲得するには、病院やケアマネジャー、地域包括支援センターといった、従来の介護保険サービスでの顧客獲得チャネルだけでは不十分である。認定前のシニア層を集客する仕組みが、別途必要になる。
 例えば、イオングループの家事代行業者カジタクでは、2015年7月からテレビ東京と組んで、シニア向けの情報・通販番組内でシニア向けのチケット型ハウスクリーニングサービスを提供し始めている。このように、地域において、元気シニアやギャップシニアと豊富な接点を持つ事業者との連携等も視野に、ターゲット候補の顧客層と定期的に出会える仕組み作りが必要である。
 第二に「働き手の確保」の仕組みも重要である。現在、介護保険サービスに限らず、労働集約型のあらゆる産業で、「働き手の確保」は大きな課題となっている。本業(介護保険サービス)での人材確保に悩む事業者がほとんどの中、保険外サービス用の人材確保にまで手が回っていないケースも多いであろう。逆に、良い人材を確保・育成・組織化できる仕組みがあれば、他社に対して大きな優位性となるはずである。
 シニア向けの旅行サービスを手掛けるクラブツーリズムが、2015年6月から「ぐっと楽」という生活サポートサービス(家事代行やシニアの寄り添いなど)を開始しているが、ユニークなのは、働き手を同社の旅行会員顧客からも募っていることである。同社は定年退職後で時間に余裕のあるシニア層を中心に個人会員を400万人以上抱えており、この「働き手予備軍」を活用できるのは大きな武器になると考えられる。介護保険サービス事業者も、自社のOB をはじめ、利用者のご家族や介護事業で培ったボランティアネットワークなど、今一度、自社の資源が活かせる「働き手の確保」の仕組みがないか棚卸ししてみる価値はあろう。
 介護サービス事業者にとって、保険外サービスの「事業」としての成否は、商品・サービス単体の魅力だけでなく、上記のような「ビジネスの仕組み」の作り込みにかかっているのである。

以上


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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