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「CSV」で企業を視る/(31)人材育成と社会的課題の解決

2015年05月01日 ESGリサーチセンター、村上芽


 本シリーズ31回目となる今回は、住友ゴム工業株式会社(以下、住友ゴム)の国内外における人材育成を取り上げる[※1]。企業の成長にとって不可欠な要素である人材育成が、どのように社会的課題解決につながっているのか、ここでは新たな製品開発やバリューチェーンの生産性改善につながる事例としてみていきたい。

(1)若手技術者による中期計画
 自動車用タイヤの原料は、半分以上が石油由来の合成ゴムである。これに対して住友ゴムでは2013年、化石資源に依存しない「石油外天然資源タイヤ エナセーブ100」を世界で初めて発売した結果、「世界で最も革新的な100の企業」を受賞するなど内外から高い評価を得ている[※2]。この開発プロセスをたどると2000年に、若手技術者による発案から始まっているとのことだ。ここで注目したいのは、それが偶然の出来事だったわけではなく、同社には、若手技術者が集まって策定する「中期計画」という仕組みがあり、そのなかで出てきた案である点だ。
 住友ゴムには「人材開発部」と「製造研修センター」という2つの人材育成に特化した組織があり、経営リーダーの育成、技術者教育、製造技術・モノづくり教育が手厚く行われている。若手にとって「教えてもらう」環境と、「自由に発想してもよい」環境が両方備えられているために、生まれてきた画期的な製品だといえよう。13年をかけて完成した「エナセーブ100」だが、バイオマス原料の高機能化等によってさらに進化させる計画であり、今後にも期待したい。
 なお、東洋経済新報社の実施した調査[※3]によると、2011年に入社し2014年にも在籍している「新卒3年後定着率」が住友ゴムは98.7%と、ゴム製品11社では2位、平均86%を大きく上回っている。この背景には様々な要因があろうが、若手の活躍実績の存在が影響を及ぼしている可能性も大いにある。

(2)ブラジル工場における人材確保と定着
 海外での取り組みも見ていきたい。住友ゴムでは、上述の「製造研修センター」がモノづくり教育を担っており、国内外統一基準で実施している。同社が社内で開催する若手社員向け「技能オリンピック」では中国・湖南工場が初めて金賞を受賞するなど、日本と海外工場(特に中国、インドネシア、タイ)の水準はかなり近づきつつあるようだ。
 住友ゴムは、アジア以外への生産拠点拡大を行っており、2013年にブラジル工場(パラナ州)でタイヤ生産を開始した。ブラジルは、国の失業率が5~6%と低位で安定しているため、企業の人材確保が困難な状況となっている。さらに、労働者側の売り手市場を背景として、離職率は約20%超と高い水準で推移しているという [※4]。そんななかで同社は、工場の生産規模拡大のために、従業員を今後さらに増やす計画である(2015年末までに、565人から1,250人へ)。
 どのように良質な人材を確保、定着させていくのか。ブラジルでは通常の人材育成に加え、95.8%を占める現地従業員の技能向上と定着率向上のための取り組みが手厚い。例えば、従業員のための奨学金制度により、従業員が大学などに通える環境整備や、管理職向けのリーダー教育の継続的な実施などである。人材育成の結果、より好待遇を望んで社員が離職してしまうリスクも一般的には指摘されるが、同社の場合は、2013年の月平均離職率は2.06%にとどまったとしている。今後も、敷地内ビオトープの造成など工場環境の改善や、地域へのサッカーグラウンド開放、従業員によるボランティア活動の推奨などにより、地域社会や近隣企業との良好な関係づくりを進める計画である。人材定着には報酬の高低が影響することは確かだが、こうした人材育成や地域貢献が、会社への愛着につながれば、企業・従業員・地域にとっての好循環が生み出されることだろう。今後、ブラジル工場でも、従業員満足や安全性向上などの成果が開示されることを期待したい。

 住友ゴムの人材育成に関する実践と成果のストーリーからは、企業と従業員本人に加えて、製品を通した環境への貢献や、地域への貢献というつながりが見えてくる。このような説得力のある開示がなされている背景には、住友ゴムグループの「経済価値と同時に社会的価値を追求する」という姿勢が、グループ全体に浸透していることがあると思料する。

参考情報
※1 住友ゴム工業株式会社ウェブサイト、2013年度・2014年度CSR報告書
http://www.srigroup.co.jp/csr/
※2 トムソン・ロイター「Top 100 グローバル・イノベーター100」
http://ip-science.thomsonreuters.jp/press/release/2014/TOP100/
※3 東洋経済新報社 新入社員に優しい「ホワイト企業」トップ300
http://toyokeizai.net/articles/-/63579
※4 日本貿易振興機構、「変化する中南米の労働・雇用環境」 2014年1月

*この原稿は2015年4月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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