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「CSV」で企業を視る/(28)日本の第一次産業の維持・発展に貢献する共有価値創造の取り組み

2015年02月02日 ESGリサーチセンター 林寿和


 本シリーズ28回目となる今回は、共有価値創造の手法の1つである「バリュー・チェーンの生産性を再定義する」ことを通じて、日本の農業及び漁業の維持・発展に貢献する企業の取り組みを紹介する。

 伊藤園の「茶産地育成事業」
 わが国の茶文化の歴史は長く、独自の発展を遂げてきたことでも知られるが、国内の茶農家の経営環境は厳しさを増している。全国茶生産団体連合会によれば、国内の緑茶の消費量は2004年度をピークに減少傾向が続いており、需要の低迷に伴って販売価格も下落傾向が続いている。全国の茶農家戸数も2000年から2010年までの10年間で約48%減という大幅な減少幅を記録している。このような厳しい状況の中、大手飲料メーカーの一つである伊藤園が進めている「茶産地育成事業」は、日本の茶農家の維持・発展に貢献する取り組みとして大きく注目を集めている。

 同社の「茶産地育成事業」の最大の特徴は、生産した茶葉を一定価格で全量を買い取ることを前提とした長期契約を、個々の茶農家と結んでいるという点である。個々の茶農家にとっては、全量買い取りを前提とした契約によって経営の安定化がもたらされている。伊藤園にとっても、茶農家に対する技術指導を併せて提供することによって、茶葉の品質を高め、かつそれを安定的に調達することができるという利点がある。

 ツムラの契約栽培における「面積保証」の採用
 医療用漢方製剤で高いシェアを誇るツムラでも同様の取り組みが行われている。同社も長年に渡り、契約栽培によって漢方薬の原材料となる薬用植物(生薬)を調達している。その際、農家との契約においては、収穫量ではなく栽培面積に応じて買い取り額を決める「面積保証」を採用している。これによって、生薬栽培農家は毎年の作柄に影響されることなく収入を見積もることができ、安定的に経営を行うことができる。さらに、栽培方法・使用農薬・乾燥調製方法などに関する丁寧な技術指導を通じて、ツムラにとっても高品質な原材料を長期に渡って安定的に確保できるというメリットがある。原材料となる生薬の多くは中国からの輸入に頼っているが、国内農家との契約栽培を通じて国内からの調達比率を高めることは、より精度の高いトレーサビリティの実現にも繋がっている。

 エー・ピーカンパニーの「漁師直送」の取り組み
 生産者と企業との共栄関係を目指そうとする動きは、水産物の調達においても見られる。居酒屋チェーンを展開するエー・ピーカンパニーでは、水産物の調達において、漁師との間で直接契約を行っている。同社にとっては流通のムダを省くことによる高鮮度・低価格の実現、漁師にとっては継続的な取引ともなう経営の安定化というメリットをそれぞれ得ることができている。

 同社の「漁師直送」の取り組みにおけるもう一つの特徴は、持続可能な漁法を行う漁師から買い付けを行っているという点である。わが国の漁業を巡っては、漁業従事者の減少という課題だけでなく、将来的になお一層深刻化することが懸念されている水産資源の枯渇という問題がある。こうした状況を踏まえ、同社は、深海トロールや巻き網漁といった魚群を能動的に大量捕獲する漁法ではなく、水産資源が成長するスピードに応じた漁獲量となる定置網等の漁法を行う漁師との直接契約を結んでおり、水産資源の持続的な利用に繋がる漁法を間接的に奨励することにも貢献している。さらに、漁獲の対象とならない魚などのいわゆる未利用魚についても、利用できるものについては漁師との直接契約において買い付けを行って自社店舗で利用するなど、水産資源の有効利用も進めている。

 まとめ
 今回紹介した3社の取り組みに共通するのは、長期的な視点から、自社のビジネスにとって必要不可欠な高品質な原材料を安定的に調達するための取り組みが、同時に、衰退が危惧されている日本の第一次産業の維持・発展にも貢献しているという点である。マイケル・ポーター教授が提唱する共有価値創造の手法の1つである「バリュー・チェーンの生産性を再定義」を、国内で実践している好事例といえるだろう。

*この原稿は2015年1月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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