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「CSV」で企業を視る/(24)多様性を企業の競争力に変える

2014年10月01日 ESGリサーチセンター、長谷直子


 本シリーズ24回目となる今回は、建設・不動産・管理事業を核として、金融・出版・ホテル・高齢者支援事業など幅広い事業を展開するスターツグループを取り上げる。同社は1969年に東京都江戸川区で個人創業したが、50年足らずで海外に約30拠点を持つ6000人規模のグローバル企業に成長した。従業員の多様な個性を尊重する同社は、女性社員の個性を活かした人材配置や、子育て中の女性社員を活用した新たな営業展開を行うなど、バリュー・チェーンの競争力強化を通じて「共有価値」を創造している。
 不動産業はもともと浮き沈みが激しい業界であるが、不況時にも沈むことのない安定した収益体質の会社を目指すため、創業者は”切る・捨てる”の合理主義ではなく、「家族主義による『拾う・救うの経営』」を企業理念に掲げ、特に人材育成に力を入れてきた[※1]。
 巨額を投資して研修センターを設けたり、社員のこころをケアするために、人事部に加え、専門相談窓口である「グループ人財サポート室」を設け、パーソナルメンタルサポートを行うなど、人を大事にする社風が根付いている。同社は「あらゆる人材が個性や能力、人柄を活かすことのできる組織づくりを目指す」という考えのもと、女性社員に対しても早くから活躍の場を提供している。

(1)女性従業員の個性を活かした人材配置による企業価値向上
 1988年、同社は「賃貸・仲介業務」の店舗に女性社員をより多く配置し、当時賃貸窓口も含めて接客は男性が中心だった不動産店舗にこれまでにないイメージを打ち出した。同業他社がまだ女性活躍推進に取り組んでいない時期から女性を積極的に採用し、1990年には採用比率が男女5対5となった。この頃から女性社員の意識を高めるために、女性社員による決起集会を行ったり、事業部ごとに「女性研修会」「座談会」を行い、女性全体のレベルアップを図る様々な取り組みが行われている。その後バブルが崩壊し、同業他社が減益減収となった中で同社は増収増益を続けたが、その背景にはそれまで育ててきた女性社員の活躍があったという。分譲部門が不振だった時、賃貸窓口で根気強く顧客のニーズに合致した物件を探したり、不動産オーナーへのきめ細かいフォローを行ったりと、賃貸・仲介・管理という会社のストック収入を支えていたのが女性社員だった。
 その結果、バブル危機を乗り越えることができたと創業者は語っている。女性は何より辛抱強いため、企業社会に本来向いているというのが創業者の考えである。仕事の細やかさ、根気強さなど、女性社員の個性を活かした適材適所の人材配置を行い、女性社員に活躍の場を提供するとともに、賃貸・仲介事業のストック収入を基軸にした安定経営を実現している。

(2)子育て中の女性社員を活用した新たな営業展開による競争力強化
 早くから女性の活躍を積極的に推進してきた同社だが、女性社員の子育てと仕事の両立には課題があった。産休復帰後に子育てをしながら時短勤務している女性社員は時間の制約があるため、本人自身が長く働けないことに引け目に感じて辞めてしまうケースがある。これは同社に限ったことではなく、厚生労働省が行った2010年に第一子を出産した母を対象とした調査でも、出産前に「有職」だった母のうち、出産前後に仕事をやめて、出産半年後「無職」になった割合は54.1%にのぼるという結果が示された[※2]。長時間労働の傾向が強い不動産業ではとくに、短時間勤務であることに気兼ねしてしまう社員は多く、同社でも子育てしながら時短勤務をしている女性社員は、一般店舗では他のスタッフに気兼ねしてしまう傾向があったという。
 そこで、子育てしながら不動産営業に励む女性社員を中心とした店舗「キャリアショップ」を2010年4月にスタートさせた[※3]。女性社員の生活スタイルに配慮して営業時間は通常より短くし、日曜祝日を定休日とする代わりに、不動産会社が定休日とすることが多い水曜日を含め平日は毎日営業し、子育て中の平日にじっくりと部屋探しをしたいという顧客ニーズに応えている。また、キャリアショップは東船橋などの子育て世帯が多く住む地域に展開し、女性社員の子育ての経験を生かしたアドバイスができることを賃貸営業の強みにしている。2010年にスタートした3店舗とも、開始後の2年は単年度の黒字を達成し、高成績を収めた店舗に与えられる旅行特典の対象にもなったという。
 
 スターツグループが女性活躍推進に早くから取り組み続けることができた背景には、創業者がもともと持っている女性への尊重の念や、「あらゆる人材が個性や能力、人柄を活かすことのできる組織づくりを目指す」という理念があったと考えられる。
 経営トップの強い理念があるからこそ本当の意味で経営に活かされ、多様性が企業の競争力に変わり、長期的な企業業績にプラスの効果をもたらしたと考えられよう。

参考情報
※1 汗生 汗とともに生きる、スターツグループ代表 村石久二、久田和子著、スターツ出版 2004年6月
※2 厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)の概況」
※3 スターツグループニュースリリース、2010年4月27日
  http://www.starts.co.jp/docs/pdf_w/ps7.pdf

*この原稿は2014年9月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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