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女性管理職の増加に向けて(1)

2013年07月03日 ESGリサーチセンター、小島明子


はじめに

 2013年6月14日、安倍内閣の新たな成長戦略として策定された「日本再興戦略」が公表された。日本産業再興プランの中では、雇用制度改革・人事力の強化の1つとして、女性の活躍推進を掲げ、指導的地位に占める女性の割合の増加を図り、女性の役員や管理職への登用拡大に向けた働きかけを行うことが明記されている。

 本シリーズ「女性管理職の増加に向けて」(1)および(2)では、まず女性管理職の登用拡大に焦点を当てて、企業がその増加を図っていく上での現状の課題やそれを踏まえた政策への期待を述べる。さらに、本稿(1)では正規職員の女性に、次稿(2)では非正規職員の女性に焦点を当てて述べる。

 「管理職」の捉え方は、利用する統計によって異なっているが、企業を対象とする厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2012年)」においては、企業規模が100人以上の場合、「部長」「課長」「係長」「その他」を合わせた「役職計」を管理職とすると、その人数は336万人である。このうち男性は300万人、管理職比率は全体の89.3%となっていることに対して、女性は36万人、10.6%となっている。

表1 従業員が100人以上の企業における役職者の男女比 [単位:万人]



(出所)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(平成24年)「一般労働者 役職」より日本総合研究所が作成 ※部長級・課長級・係長級以外の役職(職長級とその他‐部長代理や課長代理、次長など)が含まれるが、内訳は開示されていない。


 安倍内閣では、指導的地位に占める女性の割合を増加させ、全上場企業において、役員に一人は女性を登用することを推奨している。しかし、女性管理職については、登用拡大という言及にとどめており、女性管理職の数値目標を明確にしているわけではない。しかし、女性管理職比率が10.6%と著しく低い日本の現状においては、政府が女性管理職の具体的な数値目標を設定することが、重要だと考えられる。

1.コース別雇用管理制度における配慮
 IMF「ファイナンス&ディベロップメント」(2012年12月)では、女性の管理職が低い原因として、女性の低い労働参加率だけではなく、女性がキャリアコースの職につく意欲をそぐノンキャリアコースシステムの存在を指摘している。厚生労働省「平成22年変化する賃金・雇用制度の下における男女間賃金格差に関する研究会報告書」によれば、コース別雇用管理制度と呼ばれる、勤務地・職種・勤務時間等を限定して就業する社員制度は、大企業ほど導入割合(30.4%)が高い。総合職に女性が占める割合は、25.5%であるのに対し、一般職は「全員が女性」もしくは、「ほとんどが女性」を併せて68.4%に上る。さらに、コース別雇用管理のある企業では、勤続年数を経るにつれて、男女間賃金格差が大きくなるという結果も出ている。
 勤務地の限定等一定の条件の下で働けるコース別雇用管理制度は、育児や家庭との両立を考えることの多い女性にとっては、柔軟な働き方ができるメリットがある。しかし、一方で、配置や昇進、人事評価の基準が公正・公平なものに厳密に設計されていなければ、女性の昇進を阻む要因となる可能性があることも否定できない。2006年6月21日に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律」が成立したことに伴い、厚生労働省は、「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」を示している。その中では、日本においては新規学卒採用が中心となっており、学校を卒業した直後の時点では、人生の将来展望を考えることも難しく、一生のキャリアコースを固定的に決めることには無理があることを述べた上で、コース等の区分間の転換を認める制度を柔軟に設定し、女性の活躍推進の観点から転換を目指す労働者の努力を支援するといった制度設計の配慮を行うことを示している。
 厚生労働省が2010年4月から2011年3月にかけて、コース別雇用管理制度が導入されている全国の企業129社を対象とした調査では、過去3年間のコース転換実績の有無について、一般職から総合職への転換を、3年間一度もなしと回答した企業の割合は48.8%に上る。転換制度が整備されている企業においても、その実績は大きく増えていないことがうかがえる。さらに、厚生労働省「平成23年雇用均等基本調査」によれば、女性管理職が少ない(1割未満)あるいは女性が全くいない役職区分が一つでもある企業について、その回答理由(複数回答)を見てみると、「現時点では、必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない」と回答する企業の割合が54.2%と最も高い。
 女性管理職の数を具体的に増やすためには、企業の中で、職種を問わず、適性のある女性の積極的な登用を加速させる必要がある。各企業の中で管理職候補として考えられる年齢層を中心とした女性従業員の中から輩出していくことに着目しなければならない。女性管理職の具体的数値目標の設定に始まり、それに向けた教育支援、職系変更の推進などを強化していく必要がある。
すでに、大手企業の中では、積極的な職系変更の推進や支援、女性向けのキャリアセミナーの実施に注力をしている企業も出てきている。女性が活躍できるための機会をいち早く提供した企業こそが、女性の管理職候補を増やし、さらにはそれが成果にも結びついていくと考えられる。

2.部門配置における配慮
 表2は、男性従業員のみが配置されている部門が存在する企業の比率を示している。2011年度において、従業員数30人以上の企業を対象とした場合は、研究・開発・設計部門が38.5%と高く、従業員数5,000人以上の企業を対象とした場合も同様に、研究・開発・設計部門が11.0%と高い。2009年度と比べても、研究・開発・設計部門において、男性従業員のみが配置されている割合が高いことには、変化がない。一方、従業員数30人以上の企業と5,000人以上の企業を比較してみると、人事・総務・経理部門において、男性従業員のみが配置されている割合が、従業員数30人以上の企業が5.2%であるのに対して、従業員数5,000人以上の企業では、7.3%となっている。従業員数5,000人以上の企業では、人事・総務・経理部門のみが、男性従業員のみが配置されている割合が高いことに特徴がある。
表2男性従業員のみが配置されている部門が存在する企業の割合


出所:厚生労働省「雇用均等基本調査」(平成21年)(平成23年)より日本総合研究所が作成

2011年のデータでは、岩手県、宮城県、福島県は除く

 組織全体に女性活躍支援を浸透させていくには、各部門において、性別に関わらず、バランス良く配置されることが望ましい。会社の基幹的業務を担うことが多い人事・総務・経理部門においても、積極的に登用を進めている大企業は、女性活躍支援を真に進めている企業と評価することができよう。

3.政策への期待
 女性管理職が増えない理由としては、仕事と子育てとの両立の負担が重いことや、それを理由に離職する女性が多いという指摘が多い。しかし、現在、企業の中で働き続けている正規の女性従業員の管理職比率が、正規の男性従業員に比べて、著しく低い要因の中には、子育て問題以外の要因もあるのではないか。上記では、一例として、日本独自のコース別雇用管理制度や部門配置に対する新たな配慮を行う必要性に言及した。
さらに、企業の中での女性活躍支援の動きをより加速させるための政策も必要である。2012年5月には、経済同友会が、経営者は業種や業態に応じて女性活用の目標値や達成時期を自主的に定め、達成状況を定期的に公開すべきことを提言している。女性管理職を増やすためには、開示という手段をより効果的に実施することも必要である。
1つ目としては、雇用機会均等法に基づく報告制度等を新設し、一定規模以上の企業には管理職に関する男女別の情報(年齢別、職種別、職位別の人数や、賃金等の処遇)を開示するという方法が挙げられる。2つ目としては、資本市場を活用した開示という方法も挙げられる。オーストラリアでは、証券取引所に上場する企業は、ダイバーシティに関する方針や目標、達成状況、女性従業員比率や女性役員比率等の開示が求められている。例えば、ダイバーシティに関する目標や達成状況の開示を行うことは、株主から企業への働きかけを強める効果が期待される。日本では、2013年4月に、各金融商品取引所が定める「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領が改訂され、役員等の男女別の構成や、役員への女性登用の状況に関する現状の記載が追加されることとなった。女性役員にとどまらず、女性管理職に関する目標や実績、達成状況などの開示範囲を拡充していくことも女性管理職の増加に寄与すると考えられよう。


2013年11月12日付で一部修正いたしました。
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