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【シニア】
第27回 総合事業「後」の高齢者に、生活支援サービスの普及を図ることの意義

2018年04月24日 齊木大


 ギャップシニアコンソーシアムでは、要介護状態と元気の状態の間の高齢者を「やりたいこと」と「できること」に“ギャップ”が生じ始めているギャップシニアと呼び、さまざまな民間のサービスや商品の情報を紹介したり、あっせんしたりするような仕組みを目指している。ギャップシニアは、介護予防の必要性がある高齢者でもあり、「フレイル(脆弱高齢者)」と言われる対象層に重なる。

 介護保険制度では、介護予防のための取り組みとして「介護予防・日常生活支援総合事業」(いわゆる総合事業)をその柱のひとつとしている。これまでに介護予防給付サービスとして全国一律の基準で提供されてきたものが、本年度からは、全国の自治体において独自に内容や基準を定めて提供する形へと移行した。

 総合事業のポイントは、介護予防の必要性のある高齢者に対し、効果が高いと考えられるプログラムを集中的に、介護保険の財源を活用して提供することにある。例えば、ひきこもりリスクがある高齢者に対しては日課となるようなプログラムを提供し、普段の食事における栄養の偏りや低栄養のリスクがある高齢者に対しては食習慣の見直しに向けた助言や会食サービスへの参加といったプログラムを提供する。また、下肢筋力低下のリスクがある高齢者に対しては重点的なリハビリプログラムを提供し、認知機能低下のリスクがある高齢者に対しては専門職による面談や認知症予防のプログラムを提供するというような内容である。

 介護保険料の基準額が月額6,000円を超える地域が増え、介護保険の財源に限りがある状況は一層顕著になるため、総合事業も必要な人に期間を絞って集中的にプログラムを提供することが求められる。介護予防リスクのある状態に対する改善効果が出るプログラムが選ばれて提供されるので、3~6カ月程度のプログラムが終わる頃には、当然、初期と比べて高齢者の状態も改善する場合が多い。

 問題は、総合事業のプログラム提供の「後」にある。つまり、介護予防 の効果をできるだけ長く維持させるためには、高齢者自らが運動の習慣を取り入れたり食生活 を見直したりするなど、状態の悪化を遅らせる努力を続けることが求められる。しかし、本人任せであることが多く、それらを続けてもらうには限界があるのもまた事実である。

 高齢者の単身世帯が増えることも踏まえると、ひとつの解決策が、総合事業「後」のシニアに対し、介護予防の効果を維持させるための生活支援サービス(保険外サービス)を紹介することだ。例えば運動や食事の習慣を変え、それを維持する観点に立てば、健康管理サービスや食に関するサービス(配食、会食、栄養管理などのサービス)が想起される。

 では、こうしたサービスに関する情報をどのようにしたら伝えることができるか。日本総研が平成29年度にケアマネジャーを対象に実施した調査では、保険外サービスの情報を紹介する際の壁として「そのサービスを利用した結果、どのような効果が生まれたのかという情報が無い」ことが明らかになった。保険外サービスの活用促進では、しばしばサービスの内容に関する情報が無いことが課題として指摘されるが、それ以上に、そのサービスを利用することによって期待される効果に関する情報が不足しているのである。

 全国の自治体では、今年度から、第7期介護保険事業計画に基づいて総合事業がこれまで以上に積極的に展開される。総合事業「後」のシニアにターゲティングしてサービスの展開を進めるチャンスが訪れている。

 ギャップシニアはまさに総合事業の対象となり得る層だが、我々が経験してきたことから言えるのは、まず保険外サービス利用による実現効果を具体的に既存顧客から聞き取り、それを期待される効果としてケアマネジャーや自治体に発信することが、サービスの普及の鍵になるということである。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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