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ある研修生Bさんの読破論文リスト(2006年7月~2007年3月)

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≪論文一覧≫

番号 作者 表題、掲載号数/項目 概要 コメント・感想
26 アンドレアス・プリーストランド(BPシニア・コンサルタント)、ロバート・ハニグ(ダイアロゴス、バイス・プレジデント) BP:1万人のライン・マネジャー改造計画(「ファースト・レベル・リーダー研修プログラム」の成功)
HBR、2006年1月号/特集:「現場力」の覚醒 ハイ・パフォーマーの大量生産
 ジュニア・マネジャーは、品質、サービス、革新、財務実績維持の要といわれるが、質の高い教育を行うのは困難である。
 全世界に10万人以上の社員を抱える石油・エネルギー会社BPのジュニア・マネジャー研修プロジェクトにおいてリーダー育成のベストプラクティスが見えてくる。
 同社は、シニア・マネジャーで構成される「学習と能力開発」委員会(LDC)を発足させ、ウィリアム・アイザックらの「生成らせんモデル」という企業変革論を土台としてプログラム策定にあたった。設計プロセスに関係者の意見を広く取り入れるため、電話インタビューやワンデー・ワークショップに世界中の関係者を参加させた。
 ジュニア・マネジャーに「ファースト・レベル・リーダー」という呼び名をつけ、彼らを最優先に考え、強い関心を抱いていることを示した。
 ファースト・レベル・リーダーが持つ疎外感に気付いたシニア・マネジャーは、自分たちの行動を再考し、熱意や関心をはぐくみ橋渡しをする建設的なパートナーになることに目覚めた。
 カリキュラム決定のために、人事担当者と学習の専門家15人を招集し、人里離れたたホテルで4日間にわたって会議を開いた。
 研修受講者には、戦略思考の理解、仕事での有用性、地位との適合性、個人願望への会社の支援度を質問し、研修の成功基準とした。
 研修で、講師を務めたシニア・マネジャーは、組織の末端に理解を深め、ファースト・レベル・リーダーは、お互い協力するようになり予想外の相乗効果をもたらした。
 ジュニア・マネジャー研修プログラムの成功事例紹介である。成功のポイントは、企画段階で関係者の意見を粘り強く聞くことと、十分に議論し内省に時間をかけること、シニア・マネジャー自身が講師を勤めること、幅広い交流の場を設けること、研修プログラム自体の評価に厳しい基準を設けること、などであろうか。
 プログラム策定の過程を詳しく紹介してあり、筆者の苦労が分かるが、BP社特有な制約条件が多いため、他の会社ですぐに活用するのは難しいのではないかと思う。もう少し理論的な説明があると役に立つように感じた。
25 マイケル・ハマー(ハマー・アンド・カンパニー創立者) オペレーショナル・イノベーションの競争優位(企業を進化させる組織力)
HBR、2004年8月号/HBR Articles
 業務革新とは、業務オペレーションで従来とはまったっく異なる手法を編み出すことを意味する。自動車保険のプログレッシブは、交通事故鑑定人を24時間派遣できるようする即時方式を採用し、サイクルタイムの短縮により、代車や虚偽申告などに対するコストを大幅に削減した。
 業務改革にトップ・マネジメントが理解を示さない理由としては、M&Aなどに比べ業務オペレーションの革新が過小評価されていること、トップ・マネジメントが業務オペレーションに疎いこと、部門間にまたがる業務オペレーションに誰も責任を負わないことが挙げられる。
 業務改革をやり遂げるには、まず、草の根的に動き出して、構想力とカリスマ性のあるリーダーを見つけなければならない。また、社の戦略目標を達するのに実効性の高い分野に対象を絞り込むとともに、高い目標設定をしなければならない。
 業務革新に弾みをつけるためには、1)他業界に範を求める2)発想を転換させてイノベーションを促す3)常に緊急対応並みの体制を引く4)業務の勘所を見直すことが有効である。
 業務革新は、これまでどおりの手順で進めると失敗する。走りながら軌道を修正し、「反復法」を用い、何回かに分けて段階的に推進する必要がある。
 他社組織は容易に変わろうとしないため業務革新の優位性は持続する。絶えざる業務革新を企業文化として根づかせれば、きわめて大きなブランド価値を得ることもできる。
 以前読んだHBRの論文「ブルーオーシャン戦略」や「“脱”コモディティ化の成長戦略」と共通点がある内容だと感じた。
 「ブルーオーシャン戦略」は市場という視点で分析されていた。「“脱”コモディティ化の成長戦略」では、UOB(事業評価単位)やKPI(重要経営指標)などに手を加える手法であった。
 今回の「業務革新」は、業務オペレーションに視点を置いてイノベーションを目指したものであった。
 3つの共通点は、顧客の潜在ニーズの掘り起こしを出発点としているところと、今までの企業の価値観や常識を転換するところであろうか。
 また、この論文では、クリステンセンやゴビンダラジャンと同様、イノベーションに対して組織が抱える問題点を指摘している。ERPやSCMなどのくだりを読むと、筆者も組織的抵抗に苦労した経験を持つのではないかと想像される。
24 ピーター・F・ドラッカー(クレアモント大学院大学教授) プロフェッショナル・マネジャーの行動原理(優れたトップはどう行動するか)
HBR、2004年8月号/特集:経営者人材のコンピタンシー
 有能な経営者は、一般的に使われている意味での「リーダー」である必要はない。性格や態度、価値観、長所や短所は千差万別である。有能な経営者は、次の8つの習慣を実践していた。1)「なにをしなければならないか」と自問自答していた。2)「この企業にとって正しいことは何か」と自問自答していた。3)アクション・プランをきちんと策定していた。4)意思決定に対して責任をまっとうしていた。5)コミュニケーションへの責任をまっとうしていた。6)問題ではなくチャンスに焦点を当てていた。7)会議を生産的に進行させていた。8)「私」ではなく「我々」として、発言したり考えたりしていた。
 最初の2つは必要不可欠な知識をもたらし、次の4つは知識を効果的な行動へ転化する上で有効であった。最後の2つは組織全体に責任感を植えつける役割を果たした。
 最後に大変重要な法則を紹介する。
 「まず耳を傾けよ。口を開くのは最後である」(”Listen first, speak last.”)。
 経営者が求められていることは、あまりにも大きく並外れた才能だけで満たすことは無理である。有能さとは修練の賜物である。学習できるものであり、必ず身につけなければならないものなのだ。
 この論文でドラッカーが語っている有能な経営者の8つの法則は、いたってシンプルで一見当たり前の内容であった。しかし、この当たり前ようなのことを日々こなすことが、経営者にとってはとても難しいのであろう。ドラッガーのような経験豊かなコンサルタントが語ることで重みを増しているように感じる。
 また、この論文には、経営者に限らず、普通のビジネスマンが仕事を行う上でも役立つ記述が多く含まれていると思う。
 例えば、有能な経営者は可能な限り1つの仕事に集中するため常に優先順位をつけ、第1優先の課題を終えた後、再度自問自答し優先順位をつけ直す話が述べられていた。こういった仕事を処理する手順や会議の生産性を高めるテクニックなどは私にとっても大変参考になった。
 有能さとは修練の賜物であると述べられていたが、日々の当たり前の努力の積み重ねが、有能な経営者を作るのかもしれない。
23 ロバート・ゴーフィー(ロンドン・ビジネススクール教授)、ガレス・ジョーンズ(INSEAD客員教授) 優れたリーダーは自分の「持ち味」を管理する(偉大なリーダーの模倣は通用しない)
HBR、2006年9月号/特集:リーダーシップ本物の条件
 本物のリーダーとは先天的資質ではなく、他者に与える印象によっておおむね決まる。優れたリーダーは、己の人格特性のうち、どれを、いつ、だれに見せるのがふさわしいか、よく承知しており、将来に向け全力投球を続けながらも、自分の原点をけっして見失うことはない。
 本物のリーダーと認めてもらうためには、第1に言行一致を徹底すること、第2に部下たちとの共通基盤を見出すことが必要ある。
 リーダーが本当の自分を偽って振る舞えば、部下たちは早晩それに気づく。いつ、だれに、どの側面を見せるか、その判断こそ腕の見せどころだ。
 複数の自分を使いこなすには、「自己認識」と「自己開示」の能力が要求される。優れたリーダーたちは率直な意見を具申してくれる人間を身近においている。また、さまざまな層の部下たちが、はたしてどの側面を見たいと考えているのか見極める能力が欠かせない。
 本物のリーダーは、自分の生い立ちと現在の立場をちゃんとわきまえており、部下たちとの信頼関係を築くには自分の経歴をどのように活用すべきか心得ている。また、生い立ちの話は受け止められ方が文化によって異なるため、軽はずみな行動は、努めて慎む。
 多様な文化を持ち合わせた組織のリーダーは、どのような規範や要素に従って自分らしいリーダーシップを打ち出すべきか、どのような規範や要素を拒絶すべきか、みずから判断しなければならない。
 リーダーシップを発揮するために自分をどう演出するかということが述べられている論文である。
 どう演出するか以前の問題として、やはり、リーダーには豊かな人間性が必要だと思う。同時に、この論文にあるように、自分を知りぬき、どういう自分が求められているかを的確に捉え、表現しなければならない。
 自分の原点を見失わない。規則と適度な距離を置くなど、どれも、一朝一夕に身に付けられるものでは、ないし、だれもができることでもないと思う。こういった能力やリーダーシップは、幅広い経験をつみながら、自然と身に付けていくものなのだろう。私にとっては、はるかかなたの世界のように思える。
 とはいえ、こういうリーダーシップ論を学んで心に留めておくことは、これからの自分の仕事にとって、また、さまざまな職務経験を積んでいく上で、何らかのヒントになるのではないかと思う。
22 ダニエル・ヤンケロビッチ(ビュー・ポイント会長兼DYG 会長)、デイビッド・ミーア(マラコン・アソシエーツパートナー) セグメンテーションの再発見(サイコグラフィックス分析は戦略に貢献しない)
HBR、2006年6月号/特集:顧客「再発見」のマーケティング手法
 消費者の思考や行動パターンが、年齢や年収と一致しなくなり、デモグラフィックスでは、十分な判断ができなくなった。そこで、広告作成の軸足は、商品から消費者へと移っていき、ターゲット消費者像に近い人物やあこがれる人物を広告に登場させる方法が開発され、市場セグメンテーションは、サイコグラフィックスにより消費者像を探る広告用のツールとなってしまった。
 サイコグラフィックスは、ブランドの強化やポジショニングには効果的であるが、戦略上の意思決定において、どうすれば顧客を獲得し、囲い込めるかを考える上でまったく役に立たなかった。
 セグメンテーションを検討する際、満たすべき条件は次のとおりである。1)自社の戦略に対応している。2)売り上げや利益の発生源をきちんと特定できる。3)商品やサービスに直結する、消費者の価値観や心理面の傾向、信条をつかめる。4)現実の顧客行動が対象である。5)経営陣が即座に理解できるものである。6)市場や消費行動の変化を的確にとらえ、予測できる。
 また、「購買意思決定の重要度」により、企業が注目すべき点、消費者の関心事、セグメンテーションにおいて明らかにすべき点が異なる。GDS手法(GDS:gravity of decision spectrum)を利用することで、消費者の動機や不安、時に深層心理をどこまで探るべきかを判断できる。
 セグメンテーションに対する基礎知識があまりない私にとって非常に難解な論文だった。
 広告に偏重したセグメンテーションをやめて、商品開発や経営判断に資するセグメンテーションに立ち返るべきだ。という趣旨だと理解した。
 日ごろ目にするCM思い起こすと、消費者の特性を分析しそれに合うタレントをCMにあてるという手法は、確かによく使われているように思う。広告業界全体がそうとは思わないが、広告制作費を取るために誤ったセグメンテーション分析が行われているように見える。そういった状況が、筆者にとって、心外だったのだろう。
 デモグラフィックスやサイコグラフィックス、コンジョイント分析などマーケティングについて、もう少し勉強したいと思う。
21 ダイアナ・ファレル(マッキンゼー・グローバル・インスティテュート、ディレクター) 新興市場で成功する法(グローバル戦略の再設計)
HBR、2005年5月号/HBR Articles
 ほとんどの経営者は、オフショアリングを単にコスト削減の手段としてしか見ていないが、新しい収益源という角度からも考えなければならない。
 業界のグローバリゼーション度合い「貿易額÷売上高」は、業界により異なる。
 グローバル化の過程を左右する要因に「生産」、「規制」、「組織」の3つがある。「生産」については、バリューチェーンをどこまで解体できるかが問題であり、「移転適正」と「移転先ならではの優位性」が要因となる。「組織」に関する阻害要因は、「社内の経営構造」、「報酬体系」、「労働組合」の3つである。 グローバリゼーションには、①新市場への参入、②海外生産、③バリューチェーンの分解、④バリューチェーンのリエンジニアリング、⑤新市場の創造の5つの段階がある。
 最終的にグローバリゼーションで70%のコスト削減が可能である。内訳は、オフショアリングで50%、業務の再構成と訓練によって5%、プロセスそのものの改善で15%、である。また、市場拡大による利益が、コスト削減効果以上になることも珍しくない。
 グローバリゼーションの潜在的可能性はきわめて大きいが、どの企業も等しく成功するわけではない。
 グローバル化の秘訣は、「漸進的進歩という考えを捨てること」、「グローバル資産の活用」、「現地の事情に合わせた工夫」、「より高い品質の追及」が挙げられる。
 グローバリゼーションによるコスト削減で、価格弾力性がより高まり需要が増えて市場が拡大するという考え方は、とても興味深かった。
 「グローバリゼーションは、最終的に70%のコスト削減をもたらし、また、市場拡大により、それ以上の利益が得られる」と聞くと、企業経営者には、非常に魅力的に感じられると思う。しかし、国内事業と比較すると、海外事業は圧倒的にリスクが高く、安易に飛びつくと痛い目にあいそうである。当然かもしれないが、利益とリスクをしっかり管理するマネジメント能力が必要とされるのだろう。
 「うちの業界は、関係ないから」といって、グローバリゼーションから目を背ける態度をとることは、経営者として一番だめだと思う。このような論文や先進的事例を研究し、常に前向きに可能性を探りながら、進出する、しないの経営判断をきっちり行う。そういった、経営姿勢が大事だと思う。
20 デイビッド・A・ガービン(ハーバード・ビジネススクール教授)、マイケル・A・ロベルト(ハーバード・ビジネススクール助教授) 説得が変革の土壌をつくる(社員に健全な危機感を抱かせる)
HBR、2005年09月号/特集:ファシリテーター型リーダーシップ
 変革の時、再建を担った経営陣は、自分たちが前任者とどう違うのかを社員に説明しなければならない。また、抜本的な改革は避けられないこと、自分が最適任者であることを理解させ、社内の信頼を勝ち取る必要がある。そのために以下の4つのコミュニケーション戦略を作る必要がある。
 ①改革を受け入れる下地を整える。②情報やメッセージを解釈するフレームワークを提供する。③社内の雰囲気を盛り上げる。④望ましい習慣を徹底させる。
 ハーバード大学付属病院であるBIDMCの再建をしたポール・F・レビーは、理事会から権限を獲得するとともに、eメールや新聞などを使い、巧みに社員を説得し、改革の下地を作った。次に、eメールのメモを通じ、スタッフたちに改革が自分たちのものであると納得させるとともに、このeメールをコミュニケーション継続のフレームワークとした。さらに、ねぎらいの言葉とプレッシャーを使い分けることで、改革へ向けた社内の雰囲気を盛り上げた。最後に、自分が率先して新しいルールに従い、ルールに背く者には、断固とした態度をとることで、医長や他のスタッフに望ましい習慣を徹底させた。
 結果、計画を上回る利益を上げ、看護師の離職率も低減した。説得なくして、再建の成功はない。
 組織の意識改革は、並大抵のことでは上手くいかないと思う。論文にあるように、切迫した危機感がなければ、社員たちは何も変えようとしないだろうし、トップが頻繁に交代しているような状態だと、完全に社員に舐められてしまうだろう。
 この論文では、レビー氏のBIDMC再建から、4つのコミュニケーション戦略を挙げている。改革を受け入れる下地を作ること、メッセージを誤解されないよう解釈のフレームワークをつくること、社内の雰囲気を盛り上げること、望ましい習慣を徹底させること。
 どれも、大切なことだし、改革を行う上でのヒントにはなると思う。しかし、4つのコミュニケーション戦略を実現させるため必要な説得能力は、誰もが持ち合わせているものでもないし、すぐに身に付くものでもない。前提として、十分なコミュニケーションスキルが必要だと思った。
19 リタ・ギュンター・マグレイス(コロンビア大学ビジネススクール准教授)、イアン・C・マクミラン(ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授) 「脱」コモディティ化の成長戦略(UOBとKPIを変更して差別化を図る)
HBR、2005年8月号/特集:「コモディティ化」時代のマーケティング戦略
 UOB(unit of business:事業評価単位)やKPI(key performance indicator:重要経営指標)の変更など、「プロフィット・ドライバー」の再定義で、コモディティ化の進んだ成熟産業においても大きく成長する事ができる。
 生コンクリートのセメックス社は、顧客は価格より配送のほうを重視していると気付き、フェデックスを研究し、受注後数時間以内で生コンクリートを届ける事ができるシステムを構築した。
 市場価格戦略には、①顧客に提供する経験の変革、②自社が提供する事業の変革、③自社のプロフィット・ドライバーの再定義、④業界の変動予測とその利用、⑤革新的なコンセプトの創造、の5つがあるが、プロフィット・ドライバーの再定義は、比較的低リスクである。
 プロフィット・ドライバーの再定義には、①UOBの変更、②自社の生産性改善、③自社のキャッシュフロー回転率の向上、④自社の資産稼働率の向上、⑤顧客のKPIの改善、⑥顧客の生産性の改善、⑦顧客のキャッシュフロー回転率の向上、⑧顧客の資産稼働率の向上、の8つの戦略が有効である。
 プロフィット・ドライバーの再定義は、高収入で低リスクの成長をたやすく実現できる。また、その利点は、事業、顧客、製品について、社員が熟知している点である。
 プロフィット・ドライバーを再定義する戦略は、革新的な新技術や新製品を開発したり、顧客へ新しい価値観を提案したり、といった戦略よりはるかにコストはかからないと思う。
 顧客の本当に望んでいるものは何なのか、どうすれば自社や顧客のKPIを高める事ができるか、自社の足元を見直し、自問自答する。こういった地道な作業が、実は成長戦略につながる近道であるという点は、非常に興味深かった。成熟産業においては、予想以上に効果が高い手法かもしれない。
 しかし、こういった地道な活動は、革新的な新製品で一気に逆転されるかもしれない。また、コストがかからないとはいえ、セメックス社が、フェデックスを研究したように、異分野のケイパビリティを身につけ、企業の価値観を変えなければならない。伝統的な企業では、それなりに大変な作業だろう。
18 スティーブン・デニング(前世界銀行 プログラム・ディレクター) ストーリーテリングの力(人々の想像を刺激する)
HBR、2004年10月号/特集:提案力のプロフェッショナル
 筆者は、世界銀行のナレッジ・マネジメントのプログラム・ディレクターを務めていたとき、偶然に「物語」の効力を知った。物語は、ビジネスの世界で有用である。分析の強みは、客観性であり、没個性であり、無情である。しかし、これは、弱みでもある。企業が存続を問われるような場合、行動を起こさせるだけでなく、エネルギーと情熱を傾けるよう人々を動機づける事が不可欠だからだ。
 組織に対する物語において、プロのストーリーテラーがいう詳細な描写は、不要な場合がある。
 現在の職場は、表現力豊かな物語を吸収するだけの時間も忍耐力も持ち合わせていない。また、自身の状況とあまりにも異なる詳細な描写は、聞き手の、関連付けて考える精神的余裕を奪ってしまう。
 人々を動機づけるためには、前向きの物語がよく、知識を共有するためには、後ろ向きの物語のほうが良い。物語を話すときの目的により、物語の形式がおのずと規定される。
 将来について具体的な予測を語ることは、予測が間違ったときに信頼を失うリスクを負うため、人々に変革への準備を促す物語は、あまり具体的に記述することなく、あいまいに未来を喚起し、そこに至る方向を見せる必要がある。
 時期を得て正しい物語を語る能力は、不可欠なリーダーシップ・スキルとなるだろう。
 私個人としては、人前で話すことは、あまり得意な方ではないと思う。しかし、年々人前で話す機会は増えている。
 目的に応じて物語のパターンが決まるというアプローチは、とても興味深かった。また、紹介されている物語パターンも、「行動を引き出す」、「価値観を伝達する」、「コラボレーションを育む」ととてもバラエティに富んでいて、興味深かった。
 物語パターンの知識を持つことは非常に有用だと思う。その場その場にあわせた話ができるメリットは大きいし、「噂話を管理する」時や、「人々を未来に導く」時など、話の選択を間違えて逆効果になる危険性を未然に防ぐこともできる。
 そもそも、話が上手い人は、こういった物語のテクニックを、知らず知らずのうちに身に付けているのかもしれない。
17 サジュ=ニコル・A・ジョニ(ケンブリッジ・インターナショナル・グループ創業者兼CEO) だれを信頼すべきか(裸の王様にならないために)
HBR、2004年12月号/特集:チーム・ビルディング、求心力の経営
 ビジネスでの信頼関係には、「個人的信頼」、「専門的信頼」、「構造的信頼」の3つのタイプがある。「個人的信頼」とは、個人の人柄に基づく、一般的な信頼である。「能力的信頼」とは、ある専門能力に関する信頼である。「構造的信頼」は、リーダーに正しい判断の基準となる純粋な情報を提供する。構造的信頼の相手は、通常は社外に存在し、判断を鈍らせかねない個人的な利害関係や任務、文化的背景から開放されている。
 大統領は利害関係のない経験豊富な民間人の「第三の意見」に耳を傾けるべきである。リーダーにとって、支持の度合いが異なる人々の意見を聞くことは有意義である。思考が覚醒されたり、沈滞していた話し合いが活性化されたりする。
 新米リーダーは早い段階で、高い構造的信頼の下で働く「キッチン・キャビネット」を設けるべきである。
 キー・リーダーは、自分の弱みを把握することで、キッチン・キャビネットに、それを指摘、矯正してもらうことができる。また、構造的信頼を損なう要素に敏感であるべきである。
 「第三の意見」を具申できる者は、トップ・マネジメントに対して、過去の成功の本質を理解させ、現在の問題に応用できるか見極めさせ、受けついたものをなおざりにすることなく独善に陥らないよう配慮する事ができる。
 3種類の「信頼」の分類は分かりやすかった。普段、誰が信頼できるかと聞かれてイメージするのは、「個人的信頼」だろう。また、仕事を誰に任せたら良いか考えるとき、「専門的信頼」を考慮するかもしれない。「構造的信頼」は、普段意識しない人が多いように思う。身近に考えると、内容によって誰を相談相手に選ぶかという選択だろうか。著者は、「信頼の信頼性」という言葉を使っていたが、重要な視点だと思った。
 「キッチン・キャビネット」のようなものは、日本の文化にはなじまないように思う。家庭で仕事の相談ができる環境を作っておくとか、利害の絡まないところで、学者やコンサルタントなどの友人を持つ、といった事を心がけていれば十分かもしれない。
 冒頭にブッシュ大統領の事例が紹介されているが、中東や北朝鮮など最近の国際関係の緊張を考えると、笑えない事例である。米朝の指導者に是非に読んでいただきたい論文である。
16 W・チャン・キム(INSEAD教授)、レネ・モボルニュ(INSEAD教授) ブルー・オーシャン戦略(30業種100年の歴史が教える)
HBR、2005年1月号/HBR Articles
 ビジネス界には、「赤い海」と「青い海」が存在する。「赤い海」とは、既存市場のことであり、プレーヤー全員が既存需要の中でより大きなシェアを獲得しようと努める。それゆえ収益性や成長性は減少し、商品はコモディティ化する。競争が激化し、市場は血の海となる。「青い海」とは、まだ存在しない市場を象徴している。需要は、自ら作り出さなければならないが、成長の機会には事欠かず、収益性も成長性も多く望める。
 青い海を生み出すには、新しい事業領域を立ち上げる方法と、既存市場の境界線を押し広げる方法がある。
 企業戦略の起源が戦争戦略にあるため、競争がほとんどない市場を発見、開拓し、守っていくことの重要性が見逃されている。
 青い海は以下のような特徴がある。①青い海は、技術革新ではなく、顧客へ高い価値をもたらすことへと結実することで創出される。技術の簡素化が鍵になる。②既存のコア事業から生まれやすい。③企業、業界単位に分析してはならない。④数十年にわたってか輝き続けるブランド・エクエティを築き上げられる。
 ブルー・オーシャン戦略は、短期間でスケールメリットを生み、ネットワーク効果が発生し、ロイヤルティの高い顧客を生み出す。また、既存企業の事業構造やブランドイメージに合わないため、模倣されにくい。
 「ブルー・オーシャン戦略」という言葉は、耳にしたことはあったが、詳しい説明を読んだのは初めてだった。
 いままで、「新規市場」を生み出すためには、最先端の研究開発が必要で、莫大なコストと時間がかかるものと思い込んでいた。この論文は、私の思い込みを覆す内容だった。新規市場開拓には、必ずしも最新の技術が必須というわけではなく、コア事業から生まれやすく、短期間でブランド・エクイティを築き上げられる。しかも、ライバル企業から模倣されにくく、長期にわたってブランドを守れるというのも興味深い。本当に、良い事ばかり聞こえる。
 実際に新規市場を開拓するためには、さまざまな苦労を要すると思う。しかし、この論文で述べられているように、青い海が実は身近にあること、また、それを発見するのはそんなに困難ではないことを常に意識しておけば、青い海を見つけるチャンスにめぐり合うこともあるかもしれない。ぜひ書籍も読んで、さらに詳しく勉強したいと思う。
15 ドロシー・レオナルド(ハーバード・ビジネススクール名誉教授)、ウォルター・スワップ(タフツ大学名誉教授) ディープ・スマート:暗黙知の継承(経験からしか学べない)
HBR、2005年2月号/HBR Articles
 複雑極まりない状況で瞬時に素晴らしい決断を下す能力を、「ディープ・スマート」と呼ぶ。
 ディープ・スマートの持ち主は、全体を俯瞰し、余人が識別できない特定の問題を発見でき、その判断は、直感的で正しい。
 ベテランはその知識とともに退職してしまうので、ディープ・スマートがどのように培われ継承されていくのかを知ることは有用である。
 脳は、新しい情報を引っかけるフックとなるレセプター(受容器)がなければ情報を認識し処理することはできない。この認知能力の制約は組織でも同様に存在する。
 ディープ・スマートの継承が必要なとき、新人はたいてい泳ぐか沈むかの状況に投げ込まれるが、このやり方は非効率である。経験を自分の知識と結びつけられるような、フレームワーク、ツールなどを提供し、意図的にレセプターを用意したほうがよい。
 ディープ・スマートを継承するには、ナレッジコーチの指導の下、ベテランと新人による「指導の下での実践」、「指導の下での観察」、「指導の下での問題解決」、「指導の下での実験」を行うのがよい。
 これら、指導の下での体験は、ノウハウの伝承とビジネスプロセスや商品アイディア、ケイパビリティの伝承という2つのメリットがあり、予想されるほど高コストではない。
 近年、いろんな場面でマニュアル化がもてはやされている。フランチャイズのコンビニエンスストアやファーストフード店では、全国どこでもマニュアルにそった同じサービスが受けられる。初めての店でも安心してサービスを受けられる。しかし、アルバイトのマニュアル的な接客態度は、どこの店も横並びで、温かみがないように感じる。
 ディープ・スマートの継承は、職人的な技能を要する仕事においては、師弟制度などにより、昔から無意識のうちに行われていたと思う。私も、経験豊かなベテランのすばやい的確な判断に驚かされたことが、何度かある。ディープ・スマートの継承を体系化しようとするこの論文のアプローチは、非常に興味深いと思った。
 効率化し、品質を一定に保つためにマニュアル化が推進されてきたが、マニュアル化できることは、他の企業との差別化が難しい。マニュアル化を安直に進めすぎたせいで、ベテランを尊敬し、暗黙知を継承する文化が軽視されているように感じる。
 マニュアル化の弊害であり、企業にとって危機的状況になりかねないのではないか。企業の資産、価値の源泉とは何か、考えさせられた。
14 ラリー・セルダン(コロンビア・ビジネススクール名誉教授)、イアン・C・マクミラン(ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授) カスタマー・セントリック・イノベーション(株式市場はR&Dを評価しているか)
HBR、2006年8月号/特集:「ものづくり」の戦略モデル
 顧客が何を望んでいるのか十分に理解したうえでイノベーションを推進しないと、事業計画と市場の成長予測との間に大きなギャップが生じる。
 市場の期待に応え、それを上回る業績をもたらすイノベーションプロセスを開発し「カスタマー・セントリック・イノベーション」(CCI)と名づけた。CCIは、「カスタマーR&D」であり、バリュー・プロポジションを改善し、満足度の高い顧客体験を提供する方法に焦点を置いている。
 CCIのメリットは、①競合他社の脅威を未然に防ぐことができる、②従業員ロイヤルティが高まり、離職率が低下するとともに顧客満足度も高まる、③顧客ニーズを学びそれに対応するプロセスは、成長ギャップを埋めることにつながる、の3つである。
 CCIの攻撃戦略として、3つのPhaseがある。Phase 1として、既存の顧客セグメントを特定し、理解を深める。次にPhase 2として、コア・セグメントの下位セグメントのための機能を開発する。また、コア・セグメント類似するハロー・セグメントを特定する。Phase 3として、コア・セグメントとハロー・セグメントに生じた顧客の「ライフカプセル」に対応するニーズを特定する。また、性能を強化せずに対応できるセグメントを探す。
 CCIの防御戦略は、顧客ニーズの変化と破壊的技術の出現を常にモニタリングすることである。
 カスタマーR&Dを実効的に推進するには、さらに、顧客収益性の測定と管理、顧客第一主義の制度化を行わなければならない。
 製品開発や技術開発の研究者が自分の興味本位の研究に没頭してしまいがちなのは、容易に想像できる。研究者がいかにアンテナを広げて顧客ニーズを取り込めるかが、企業のR&Dにとって鍵になると思う。 
 CCIは、これらの問題を解決するために顧客に重心をおいたR&Dプロセスとなっている。
 注目すべき点は、商品の機能とセグメントを顧客ニーズに合わせ少しずつ広げていくことで継続的なイノベーションを図ろうとしている点と、顧客ニーズの変化と破壊的な代替品の出現に常に注意を払っているという点だと思う。この2点は、研究開発者が特に見落としがちなポイントではないだろうか。
 また、これらの取り組みを通じて顧客満足度の向上のみならず、従業員のロイヤルティも高まるというのは、非常に興味深いと思った。
 継続的にイノベーションを生み出し、成長していくためには、このCCIプロセスは有効だと思う。ただし、プロセスが型にはまりすぎていて、本当に革新的なイノベーションを狙う場合には、向かないのではないかと感じた。
13 ポール・F・ヌーンズ(アクセンチュアインスティテュート・フォー・ハイ・パフォーマンス・ビジネス研究員)、ブライアン・A・ジョンソン(スタンフォード・C・バーンスタインリサーチ・アナリスト)、R・ティモシー・S・ブリーン(アクセンチュアチーフ・アナリスト) 新富裕層のマーケティング(CRMでは攻略できない)
HBR、2004年11月号/特集:「脱」常識思考のマーケティング
 マス・マーケットと高額市場の境目に膨大かつ高収益な「新富裕者層」というマーケットが誕生した。新富裕者層に支持を得るには、ポジショニング、商品デザイン、流通・マーケティングチャネルを変えなければならない。
 新富裕層を狙うには、まず、セグメンテーションやターゲティングよりポジショニングを重視し、中間価格帯にリポジショニングしなければならない。そして、特権的サービス、付加サービスを提供すべきである。
 商品やサービスのデザインについては、文脈をかえ、目的限定利用にしたり、高級品の共同所有やレンタルのように所有の意味を変えたり、バリュープロジェクトポジションを変えて消費に投資的価値を認めさせたりすることが有効である。
 また、新富裕者層をターゲットとした販売チャネルや広告メディアを活用すべきである。
 ノースウェスタン大学の松山教授は、大量消費には2つの好循環があると説く。低価格化にともなう低所得者層への「下向きの浸透効果」と余剰所得を高額品へ向ける「上向きの浸透効果」である。すべての所得層にイノベーションの恩恵を行き渡らせるには、なだらかな所得分布曲線でなければならない。
 この論文は、米国の「新富裕者層」について述べているが、感覚的に、日本やその他先進諸国でも同じ傾向があるのではないかと思う。 
 身近でも、海外旅行や、コレクション、趣味に出費を惜しまない人を良く見かける。多少高価であっても、商品にストーリー性があるものや、なにかほかと違う機能やデザインがあるものに、興味を引かれる気持ちはよく理解できる。
 この論文は、商品のマーケティングを中心に書かれているが、サービスを対象にした方がより、当てはまるかもしれない。
 松山教授は、すべての所得層にイノベーションの恩恵を行き渡らせるには、なだらかな所得分布曲線がよいと述べている。日本の所得分布はどうなっているのだろうか。少し気になった。
12 ヘンリー・ミンツバーグ(マギル大学 教授) 戦略プランニングと戦略思考は異なる(【名著論文再揚】真の戦略家は「創発」を促す)
HBR、2005年7月号/特集:戦略思考のプロフェッショナル
 戦略プランニングと戦略思考が異なるということが、一般的に理解されていない。
 戦略プランニングにおけるプランナーは、一つの正解を見つけるのではなく、幅広くそれにまつわる問題を考え、マネージャーが戦略的に思考できるように、力を貸し、触媒のような働きをするべきだ。
 戦略思考とは、インテグレーションで、そこからは、何らかの総合的ビジョンが生まれる。戦略は、インフォーマルな学習プロセスから創造される。
 戦略プランニングに対する誤解は、「予測は可能である」、「戦略家は戦略課題と別世界に存在する」、「戦略策定プロセスは定型化できる」という三つの誤った前提に起因する。
 プランニングは、各業務部門のマネージャーが生み出した効果的な戦略を、実行できるものへ変える。戦略プログラミング(プランニング)は、戦略を「記号化」し、「精緻化」し、「転化」することである。プランニングは、組織内外に、方向性を示し、支援を得るために有用である。
 プランナーには、戦略の発見者、アナリスト、触媒者としての役目がある。
 戦略策定のプロセスを恣意的に定型化するより、むしろ自由度を与えるべきである。
 戦略プランニングについて、詳しい知識がないので、身近な例として、「プランナー=経営企画部」というイメージで読み進めた。
 「プランナー=経営企画部」という前提で考えたとき、私も、プランナーの仕事を誤解していたように思う。おぼろげながら、プランナーが経営戦略の素案をつくり、経営層、マネージャーの承認を得た後で、各事業部門で詳細計画を練るという流れを想像していた。
 ミンツバーグが理想とするプランナーの役割は、非常に幅広く、とても重要だと思う。戦略の発見者、アナリスト、触媒者としての役割を果たすことで、マネージャーが戦略を創造するプロセスを下支えする。縁の下の力持ちであり、戦略創造の場をプロデュースする仕事といったイメージだろうか。
 この論文は、プランナーの仕事に興味を持つきっかけになった。何れ機会があれば、戦略プランニングや戦略策定のプロセスについても勉強したい。
11 マックス・H・ベイザーマン(ハーバード・ビジネススクール教授)、ドリー・チュー(ハーバード・ビジネススクール研究生) 「意識の壁」が状況判断を曇らせる(無意識に重要情報を排除する)
HBR、2006年4月号/特集:「決断」の科学
 製薬会社メルクは、薬害があることが公表されている鎮痛剤バイオックスを販売し続けた。これは、経営者の意識の壁の中に利益はあったが、危険性は、意識の壁の外にあったからである。
 意識の壁は集中力の産物である。他に集中していたため、意外なものを見落としたり、発見頻度が少ないという先入観から見落としたり、徐々に大きくなっていったため気づかなかったり、ということがある。これらは、しかるべき訓練をしたり、複数の人に見せたり、アウトサイダーの視点を活用することで、回避することができる。
 
 スペースシャトル・チャレンジャー号の事故などのケースでは、情報に対し十分な反証がされていなかった。反証のないデータを疑ってかかったり、グループの一人に「悪魔の尋問者」の役割を与えたりすることで、意識の壁の外に眼を向けることができる。シティバンクは、業績に目を取られ、日本の法律に抵触してしまった。成功そのものが、簡単に入手可能な情報をなおざりにさせてしまう壁になる場合がある。これを、解決する一つのアプローチは、状況を分解し関連情報のすべての文脈を明らかにすることである。
 会議などで、重要な情報が共有されない場合がある。「隠された側面」を明らかにすることの効果を認識しなければならない。
 重要な決定をする際に意識の壁のせいで重要情報が漏れていないか再考すべきである。また、どうすればもっとうまくいくのか、一般的な仮説を立てることで創造的な解決策が生まれてくることがある。
 単純な見落としは、個人作業の場合ありがちだが、優秀な人材が大勢携わる、大企業の意思決定の場で、こういった見落としがなされるというのは、非常に驚きであった。
 情報を十分持っているはずの経営者層ですら陥りやすいという点で、この「意識の壁」は非常に厄介である。そして、メルク社のように長期間発見できない場合もあり、その損害も甚大になる場合が多いのではないだろうか。
 また、情報共有の場であるはずの会議で「隠された側面」が発生するというのは、とても皮肉であると感じた。
 経営判断を下す際の反証や部外者視点でのチェックなどが、いかに重要であるかよく分かった。
 製薬会社メルク、コカコーラ、シティイバンクなどの大企業あるいは、NASAなどの国の機関であっても、素人でさえ気づきそうな単純かつ重大なミスを見落としてしまう可能性がある。そこが、意識の壁の恐ろしいところであると思った。
10 ベンソン・P・シャピロ (ハーバード・ビジネススクール名誉教授) 営業と製造のジレンマ(普遍のコンフリクトは解消できないのか)
HBR、2005年1月号/特集:一流の営業力
 営業担当と製造現場が対立しやすい8分野がある。①生産計画と長期売り上げ予測、②生産計画と短期売り上げ予測、③配送と物流、④品質保証、⑤商品ラインの多様化、⑥コスト・マネジメント、⑦新商品の導入、⑧付加的なサービス、である。
 営業と製造の間のコンフリクトをもたらす基本的原因として①評価と報酬、②複雑性、③志向と経験、④文化の差異の4つがあげられる。
 コンフリクトの解決策として①全社方針やビジョンを徹底する、②業績評価基準を修正する、③人間関係を深める、④他部門のニーズに応える、の4つがあげられる。
 営業部門と製造部門のコンフリクトは、現実に存在しており重大である。その原因は複雑だが、十分両部門はそれぞれ独自に果たすべき役割と満たすべきニーズを抱えている。
 営業担当と製造現場とのコンフリクトは、昔からどの企業も抱えていながら、なかなか改善されていない問題であると思う。当事者としてその場に立つと、どうしても、自分のポジションからの見方に固執してしまい、ついつい感情的になりがちで、相手の意見に耳を傾けるのは難しい。 
 この論文は、営業と製造のコンフリクトの種類と原因を整理し、全社的視点からその代表的な解決策を述べており、共感する部分も多く、非常に示唆に富んでいると思う。
 営業、製造両担当者が、この論文を読んで議論する場を設ければ、コンフリクトを幾分緩和できるかもしれない。
9 山梨広一(マッキンゼー・アンド・カンパニーディレクター) パートナリング:マーケティングの新しいP(コスト削減ではなく、需要創造に向けた合従連衡)
HBR、2005年2月号/特集:マーケティングの新しい「P」
 マーケティングで期待されているイノベーションのうち、もっとも重要かつ有効なのが「パートナリング」であり、パートナリングには、①参加企業の能力を向上させる、②新たなバリュー・プロポジションを生み出す、といった2つの効果がある。
 パートナリングを行う上で有効なフレームワークとして「パートナリングの4S」がある。4つのSとは、「スケール」、「スコープ」、「スキル」、「ストリーム」である。「スケール」とは、パートナリングにより単にマーケティングの効率とキャパシティをあげるもので、「スコープ」とは、複数の企業で多様な商品・サービスを組み合わせて提供すること。「スキル」とは、企業の能力を提供し合うもの。「ストリーム」とは、複数の企業が共同で新たな需要を創造する戦略的なパートナリングである。
 パートナリング企業間の関係性として、「パートナリング発展4段階」があり、「取引レベル」、「サービスレベル」、「パートナーシップレベル」「統合レベル」と4段階にレベルわけされる。
 パートナリングを成功させるもっとも重要な要因は、ガバナンス、すなわち参加企業を共通の目的へ向かって連携させる仕組みとリーダーシップである。
 企業内にこだわるのではなく、パートナリングへも目を向けることは、企業経営の選択肢として有効だと思う。
 しかし、パートナリングは、マネージメントが非常に難しそうだ。「WiLL」の事例が挙がっていたが、よいチャレンジだったと思うが、成功例としてよいのか少し疑問だ。
 今後、各業種トップクラスの企業のパートナリングとか、同業種のパートナリングが期待されると述べられていたが、これは、難易度が高そうだ。各業種のトップクラスとして生き残ってきた企業は、自らの企業文化や理念に誇りを持っているだろうから、そういった個性的な企業の集まりにおいて、長期間パートナーシップを保っていくのは非常に困難だと思う。
 トップクラスのパートナリングにおいては、短期間にお互いの得意領域にかぶらないよう範囲を限定した上でパートナリングを結ぶのが現実的だと思う。あるいは、地場産業や中小企業の異業種交流の方が上手くいくような気がする。
 本論文で最後の方に記述されていたが、それぞれ、文化も目的も違う企業をパートナリングとしてまとめ、成功に導くには相当卓越したリーダーシップが必要だろう。
8 バラット・アナンド(ハーバード・ビジネススクール助教授)、アレクサンダー・ガレトビック(チリ大学 応用経済学センター助教授) マーケティングで知財を守る(もはや法律には頼れない)
HBR、2005年6月号/HBR Articles
 知的財産権を保護するに当たって、特許よりマーケティング戦略を駆使し、不正利用を阻止するほうが、相対的に効果的である。
 知的財産を守る戦略には、①芽のうちに摘み取る(先手を打ち市場を圧倒して利益を得る)、②鎮静剤を処方する(クロスライセンスなどによりライバルと協力する)、③蜜の壷を掘り当てる(中核的な知的財産にほかの資産を組み合わせてシナジーを生み出す)、④バンドリングする(補完的な商品とバンドリングする)、⑤ゴールポストを動かす(自社の事業範囲を動かし収益を得る)⑥愛犬を手放す(資産価値が低くなったコア事業から撤退し隣接事業へ移行する)の6つがある。
 有効な戦略を探すために、まず、中核的な知的財産を防衛するための戦略を考え、次に隣接事業を活用する戦略を吟味する。
 意思決定の際には、既存事業をできるだけ広範に定義し、社内の抵抗を避け、中核的知的財産を放棄することを恐れないよう心がけるとよい。
 原文が難解なのか、翻訳の問題か、私の読解力の不足のためか、大変読みにくく感じた。
 今まで、知的財産は、訴訟を通じて法で守るイメージを持っていた。しかし、この論文の手法は、知的財産を法的手段で守る限界を指摘し、裁判で時間をかけるより戦略的な対処を勧めている。
 確かに、ソフトウェアやコンテンツ業界のように流行があり、移り変わりのスピードの速い業界においては、時間と費用をかけて勝てるか分からない裁判を行う暇はないかもしれない。
 知的財産を守る方法として、戦略的に防御する、あるいは、事業を再定義するか、コア事業から撤退する方法が挙げてあった。
 合理的だが、大胆な方法だと思った。知的財産を放棄したり、事業を再定義したりというのは、普通の企業にはなかなか難しいと思う。
 デジタル化が進む近年、知的財産権にかかわる事業は、それだけ厳しくなってきているということだろうか。
7 ビジェイ・ゴビンダラジャン(ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス 教授)、クリス・トリンブル(ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス非常勤准教授) 「問題児」事業を自立させる法(いかに「金のなる木」に育てるか)
HBR、2005年9月号/HBR Articles
 企業が新規事業(新会社)を起こすとき、既存事業(親会社)との間で、「放棄」、「借用」、「学習」の3つの難問が発生する。本論文ではこれらの問題とその対策を、ケーススタディを基に解説している。
 「放棄」の問題とは、親会社と異なる新しいビジネスモデルで運営される新会社は、業績評価基準、企業文化など親会社の成功要因の一部を放棄しなければならないが、多くの企業で、それが非常に困難であるという問題である。この問題を解決するためには、社外人材の採用、業務評価基準の一新などの施策が必要である。
 「借用」の問題とは、新会社運用に当たって親会社から経営資源の借用が必須になるが、カニバリゼーションの誤解などから親会社との軋轢を産み、資源の効率的な借用ができなくなることである。この問題を解決するには、「放棄」とのバランスをとりつつ、共通の価値観を見つけ出すこと、親会社を懐柔することなどが重要である。
 「学習」の問題は最も難しい問題である。不確実性の高い新規事業の成功には、親会社とは異なる新たな学習のサイクルを作ることが重要となる。そのためには、親会社と評価会議を別にすること、予測を重視すること、保身に走らず情報を隠蔽しないこと、計画の作業量を下げて頻度を上げることなどの施策が必要となる。
 目先の利益や高成長をもとめて、深く検討をしないまま新規事業に飛び込んでいく企業は多いと思う。本論文のように客観的な目で新規事業のマネージメントを分析し、また、過去の事例をケーススタディすることは、経営のミスリードを防ぎ、事業を成功に導くために意義深いと思った。
 「放棄」、「借用」、「学習」の3つの切り口からの分析は、非常にわかりやすかった。3つの問題に共通していえることだが、事業のマネージメントは、最終的には、テクニックや経営手法以上に、人の問題に帰着することを感じた。 
 新規事業を成功させることは、多くの企業について共通した課題であろう。近年、社会環境の変化から多くの企業が変革を求めれれるように思うが、ビジネスモデルが安定していて変化に乏しかった歴史ある古い企業ほど、新規事業への取り組みが困難なようである。
6 トーマス・H・ダベンポート(バブソン大学教授) ビジネスプロセスがコモディティ化する(標準化が企業経営と戦略を変える)
HBR、2005年11月号/HBR Articles
 BPOは、世界中に広がりを見せているが、その業務範囲は限定されていた。その理由は、他社と自社のケイパビリティを比較する基準がなかった(ビジネスプロセスが標準化されていなかった)からである。
 ビジネスプロセス(BP)を標準化するには、①ビジネスプロセスを構成する諸活動とそのフローの標準化、②ビジネスプロセスのパフォーマンスを評価する基準、③プロセス・マネジメントの標準化の3つが必要である。
 ③の成功事例としては、CMM(Capability maturity model:能力熟成度診断モデル)やISO9000があげられる。CMMが成功した要因は、5段階評価のわかりやすさと、米政府の後押し、そして、教育研修などのネットワーク化である。標準化により、BPOベンダーは増えて、サービス価格は下がる可能性が高い。BPOベンダーは差別化の源泉を求め、アイディアや知見、イノベーションを提供し始めるだろう。
 経営陣にとっては、コアプロセスとノンコアプロセスの見極めが重要になる。BPの標準化はきわめて合理性が高く、基準作りに一役買ったほうが賢明である。
 本論文は、現在までのBPOの流れ、BPの標準化に必要な3つの基準、CMMとISO9000の事例、今後、BPのコモディティ化が競争にどういった変化をもたらすのかについて紹介している。
 BPの標準化によりBPOの質が高まり価格が低下することは、経営の選択肢が増え良いことだと思う。しかし、最近のISO9000に関して言えば、取得が目的となってしまっている風潮があるように見えるし、また、あまりに多くの企業が取得しているので差別化にならなくなっているように思う。
 インドや中国など安価な労働力を売りにしている国を除いて、BP標準化の方向へ企業のインセンティブは働きにくいのではないかと思う。
5 ジョージ・S・デイ (ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授)、ポール・J・H・シューメーカー(ディシジョン・ストラテジーズ・インターナショナル創立者兼会長) 生き残る企業は「周辺視野」が広い(変化の予兆に気づく能力)
HBR、2006年3月号/特集:戦略の定石 戦略の死角
 「バービー」人形が「ブラッツ」にシェアを奪われたのは、少女たちの嗜好変化の予兆を見逃したからだ。
 企業は、環境変化の予兆をいち早く察知し、対応するあるいはチャンスに変える必要がある。そのためには、自社が持つべき周辺視野を測定し、必要に応じてその能力を高めなければならない。
 周辺視野を強化するためには、以下のような問いかけが有効である。
 過去の視点から、「これまで盲点だったことは何か。そこに何がおきようとしているのか」、「他業界に他山の石となる類似点はないか」、「かすかな兆しをつかむのがうまく、だれよりも早く行動に移している同業他社はどこか」を問う。
 現在の視点から、「自分で勝手に納得し、大切な信号を見逃していないか」、「変わり者やノン・コア部門が伝えようとしていることは何か」、「視界の縁に移る顧客や競合他社は何を考えているのか」を問う。
 未来の視点から、「最大の脅威となる、あるいは最も歓迎すべき変化とは何か」、「どのような新技術がトレンドを変えるのか」、「予想外のシナリオを想定しているか」を問う。
 周辺視野を広げる即効性の強化法は存在しないが、矯正することは十分可能である。
 環境変化が激しく、不確実性が高まっている現在のビジネス環境では、周辺視野強化の意義は、高まっている。
 本論文では、特に現在のコア事業から、空間的、時間的に、やや離れた部分での企業環境の変化を的確に捉える力を「周辺視野」と呼んでおり、その測定と強化の必要性を訴えている。
 「周辺視野」の考え方では、特定の事業に重点を置くのではなく、コア事業から離れた部門や遠い将来に重点を置いて分析することで、危険性のある事業を探しだすアプローチをしており、PEST分析などの外部環境分析と比較して、外側から内側への視点の移し方が特徴的であると感じた。
 「ノン・コア部門」の意見を聞く、「他業界」の動向に注目する、未来を想像し「予想外のシナリオを想定」するなど、自社の周辺から攻める問題探しの手法が、私にとっては新鮮でとても興味深かった。 
 本論文では周辺視野の必要性と広さを縦横の軸にとったマトリクスを使い、企業を「弱視」、「周到」、「健全」、「神経症的」の4つに分類し分析している。
 「弱視」の企業に対する対処法は詳しく述べられていたが、「神経症的」の場合どのような対処が必要か知りたい。
 また、環境の変化によりマトリクスは常に見直しが必要だろうし、業界や企業形態によっては影響を与える要因に重み付けが必要ではないかと思う。どの企業も同じマトリクスで一意的に判断するのは危険な気がした。
4 ジェフリー・A・ムーア(TCGアドバイザーズ社長) すべての企業に「利き手」がある(複雑系モデルか大量生産モデルかを見極めよ)
HBR、2006年3月号/特集:戦略の定石 戦略の死角
 企業には、「複雑系モデル」を得意とする企業と「大量生産系モデル」を得意とする企業がある。2つのモデルは、価値創造が正反対であり、市場調査からサービスにいたる一般的な7段階のバリューチェーン上において、すべての段階で価値創造のプロセスがまったく異なる。
 戦略的買収の多くが惨憺たる結果に終わるのは、買収側の利き手(ビジネスモデル)が優先され、被買収側の利き手がなおざりにされるからである。
 製薬会社のように、同一バリューチェーン上に2つのビジネスモデルを持つ企業は、両方のビジネスモデルをある程度分離し、それぞれ個別に運営することがよい。また、1つのバリューチェーン上で2つのビジネスモデルを上手く使い分けたなら、競争優位性を獲得できる。
 「複雑系モデル」の対象であった市場は、やがてコモディティ化が進むと、「大量生産系モデル」へ変化する。「複雑系モデル」の企業は、新天地を切り開き、先行者利得を手にするが、「大量生産系モデル」の企業はこれに追従し、残余利益を吸い取る。
 どちらかのビジネスモデルで足りる場合は、シナジーを最大にし、両方のビジネスモデルが必要ならば、慎重に慎重を重ねるべきだ。
 この論文の冒頭では、すべての企業は、「複雑系モデル」と「大量生産系」モデルに分類されると書かれているが、「大量生産系」と「複雑系」の区分けが分りにくかった。特に中小企業やサービス業などで、きっちり区分けするのが難しい業種も多いように思う。
 バリューチェーンの上流と下流に2つのビジネスモデルが存在する事例として製薬会社が、また、「大量生産系」を捨てて「複雑系」へ集中した事例としてIBMが記載されていたが、構造的に2つのビジネスモデルが存在する業種や常に2つのビジネスモデルを行き来する企業もいるかもしれない。
 現時点の自社企業の主たるビジネスモデルはどちらかをしっかり認識した上で戦略を立てることが、重要ということだろうか。
3 V・クマ(コネチカット大学経営大学院教授)、ラジクマー・ベンカテサン(コネチカット大学経営大学院助教授)、ベルナー・ライナルツ(INSEAD准教授) いつ、だれに、何を売るかを知る方法(ベイズ推定で購買行動を予測する)
HBR、2006年6月号/特集:顧客「再発見」のマーケティング手法
 従来顧客の購買タイミングを予測する場合の的中率は、60%程度でしかなかった。顧客データを解析する時に用いられる数学的モデルに問題があった。
 今までの予測モデルでは、まず、顧客が製品を選択する確率を回帰分析で求め、次に、顧客がその製品を特定のタイミングで購入する確率をもう一度回帰分析を行ってもとめる。それらの結果から、購買予測キューブを作成し、マーケティングに活用していた。
 しかし、2段階の回帰分析では、製品選択と購入時期の2つの確率の相互依存関係が考慮されない「サンプリング・エラー」が発生していた。
 2段階の回帰分析の代わりに、尤度関数を用いた「ベイズ推定」と呼ばれる考えを導入することで、的中率を80%まで高めることに成功した。
 実地テストにおいて、購買予測の的中率をあげることで、マーケティングコストを削減するとともに、マーケティングの最適化により、顧客単価を増やすことにも成功した。
 勉強不足で、マスマーケティングにおいて、ここまで、細かい数学的モデリングをしているとは、知らなかった。
 新しいモデルの導入により、的中率が60%から80%へ改善したことは驚異的である。というより、今までのモデルが、それだけ的中率が低かったことのほうが驚きであった。
 ベイズ推定や尤度法など詳しくは分からないが、より確率の高い購買予測方法が開発され、また、その結果がCRMシステムなどに搭載されることで、マーケティング精度はもっと向上するのではないかと思う。非常に大事な研究テーマのひとつであると思う。
 ダイレクト・メールなどのマーケティング・コミュニケーションを乱発することにより、かえって売り上げが減少する場合があるというのも、興味深かった。予測モデルの精度を高めることがいかに重要であるかが分かった。
2 【コメンテーター】 ノルベルト・ハーマン(コンサルタント)バーバラ・D・ボブジャーグ(米国会計検査院ディレクター)ディエトマ・マルティナ(ドイツ・テレコムディレクター)アイリーン・A・カメリック(ハイドリック・アンド・ストラグルズCFO)
【ケース・ライター】 コーネリア・ガイスラー(『ハーバード・ビジネス・マネジャー』誌シニア・エディター)
企業は「超高齢社会」にいかに備えるべきか(25年後、ドイツの高齢人口は25%、日本は30%を超える)
HBR、2006年7月号/HBR Case Study
 仮想のドイツ中堅製薬会社M社で、高齢化問題への対応で苦悩する人事部長フランクを題材にしたケーススタディ。
 超高齢化社会が同社に及ぼす影響に気付いたフランクは、長期的視点での人事戦略リポートを作成するが、担当役員に却下されてしまう。パートタイム法に対する同社の方針変更に不満をもち働く意欲をなくした古参社員や、中高年齢層の人材をほしがるマーケティング部門、同社の採用募集に応募した優秀な女性技術者との交流を通じ、同社を中高年社員が生産性を維持ずると同時に若手社員が魅力を感じる企業にしなければならないと感じたフランクは、社内託児所の可能性について担当役員に提言するが、コストなどを理由に再び却下されてしまう。
【上記ケースへのコメントの概要】
①ノルベルト・ハーマン(コンサルタント)
 経営陣への答申にはしかるべきデータと事実情報が必要。予測される高齢化の影響をコスト、業績、イノベーションの視点から提示し、中高年層の再教育やマーケティングへの活用など具体的未来を示さなければならない。
②バーバラ・D・ボブジャーグ(米国会計検査院ディレクター)
 高齢化による労働力の不足は、先進諸国に共通する問題。中高年が長く働き続けるよう、労働者、雇用者、両方にインセンティブを与える施策が必要。公的部門と比べ、米国の民間部門は概して中高年労働者の雇用問題に消極的。今後は、「知識労働」に依存する業界をさきがけに、民間部門での改革機運も高まろう。
③ディエトマ・マルティナ(ドイツ・テレコムディレクター)
 託児所のアイディアはすばらしい。「ウォー・フォー・タレント」が当たり前になった今こそ、従業員家族に優しい会社になることは賢明。中高年層のサボタージュはコスト、競争力、評判の面で大きなダメージをもたらす。転職アドバイザーを雇ったり、中高年へ負担の少ない仕事や経験を生かせるコンサルタントの仕事を割り当てたりするのがよい。
④アイリーン・A・カメリック(ハイドリック・アンド・ストラグルズCFO)
 人材需要に対処するには長期的な戦略を要する。グローバリゼーションとITによりロールモデルも変わる。世界中の優秀な人材、ITを使って共通した目標へ協働できる人材を採用するのが新しいモデルである。
 高齢化については、日本のどの企業も同じような問題を抱えていると思う。目の前のコスト削減が優先され、長期的な観点での人事戦略の策定はどうしても後回しになりがちである。
 このケーススタディでは、高齢労働者に関する法制度、中高年層の労働意欲と生産性の低下、中高年層の経験に対する(マーケティング部門などでの)ニーズ、若く優秀な人材を確保することが難しくなっていることなど、少子高齢化にまつわる問題をさまざまな切り口で描いており、興味深かった。また、現場の意見や問題点を背景に聞く耳をもたない経営陣に立ち向かう主人公に好感が持てた。
 コストの削減などの理由で、人員の削減を進めている企業は多いと思うが、労使関係などから解雇は難しく、採用を最小限に抑えて対処しているところが多いのではないだろうか。職務の中で中高年層に漂う雰囲気、若手の質の低下や早期退職など企業が抱える問題点をおぼろげながら感じていたが、このケーススタディを通じて、問題点を改めて認識できた。
 コメンテーターは、いくつかの施策を示しているが、企業を囲む環境や制約から、こういった施策を採用できない企業も多いのではないかと思う。しかし、問題点を明らかにするだけでも有意義であるし、それを企業内で共有することが重要だと思う。コメンテーターの施策例が示すように全く解決策がないわけではないが、簡単に実施できて、すぐに効果が出るような解決策があるわけでもなさそうだ。各企業は自社の環境にあった解決策を地道に探すしかないように感じた。
1 ジョン・H・ロバーツ (ロンドン・ビジネススクール教授) 市場防衛のマーケティング(オーストラリアの国営電話会社の攻防に学ぶ)
HBR、2006年8月号/ HBR Articles
 オーストラリアでの通信自由化に際し国営電話会社テルストラがとった戦略を例に、「防衛マーケティングの4パターン」(①ポジティブ戦略、②惰性戦略、③パリティ戦略、④遅延戦略)と「価値と脆弱性」による市場分析を紹介している。  市場リーダー側からのマーケティング戦略は、入門書では取り上げられることが少なく、興味深かった。また、丁寧なかつ適切な事例紹介で理解しやすかった。
 防衛マーケティングの4つの戦略と価値(儲かる顧客かどうか)と脆弱性(ライバルに流れやすい顧客かどうか)による顧客分析は大変興味深かった。また、「懲らしめ要因」と呼ばれる市場リーダーならではの問題は、印象深いものだった。 
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