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松下芳生・他『戦略のパラドックスへの解 実践手法と業界別ケーススタディ』(2008年10月、翔泳社)

松下芳生・他『戦略のパラドックスへの解 実践手法と業界別ケーススタディ』
読み手 :山浦康史研究員(2009年1月27日に記述)
≪概要≫(作成:山浦康史)
戦略のパラドックスへの解』は、マイケル・E・レイナー『戦略のパラドックス』(2008年1月)を受け、日本における「戦略のパラドックス」に対応するための方策をまとめたもの
戦略策定において、従来は外部環境(業界動向等)を予測し、予測された環境下での打ち手を考えることが一般的であったが、本書では、外部環境を予測するのではなく、業界動向を把握した上で、複数のシナリオを策定し、その中で「中核戦略」、「偶発戦略」を策定するというステップを踏んでいる
本書では、上で提案したフレームワークを使用して、日本の自動車業界、小売業界、通信業界、医療機器業界を具体的に分析している。各業界で不確実要素を3つ抽出(下記参照)し、抽出した不確定要素を2×2×2の3軸8象限に場合分けを行い、それぞれのパターンについて業界動向を考察しながら、シナリオを策定する。策定された全てのシナリオに対応できる柔軟性を持つために、幹となる中核戦略に加え、リアル・オプションの考え方に基づいた偶発戦略を策定する。
各業界の不確実要素

自動車業界 :①グローバル市場の多様化、②環境・安全対応への要請、③新技術の革新・台頭。

小売業界 :①大型店の出店に対する規制、②EC化、③消費者ニーズの多様化。

通信業界 :①IP化の発展、②モビリティの発展、③ネットワークの中立性。

医療機器業界 :①公的医療保険制度の見直し、②患者ニーズの多様化、③先端医療技術の進展。
読書ノート≫(作成:山浦康史)
本書籍は、シナリオ分析に関して、理論だけではなく、実践的なフレームワークを提供するものである。
当初この書籍を読むにあたっては、マイケル・E・レイナーのフレームワークに、日本における「不確実性」の特徴や、日本における「組織形態」の特徴等を盛り込んで、日本版にカスタマイズしたフレームワークが提案されていることを期待していた。しかし、概要で述べた「日本における」の意味は、戦略策定手法に日本の特殊性を盛り込んだものはなく、日本の業界についてフレームワークを用いて分析したものであり、フレームワーク自体に日本の特徴が盛り込まれているわけではないことに留意が必要である。
しかし、日本の特徴は盛り込まれていないまでも、具体的な部分まで体系化されていて、実際に4業界を概ね同じフレームワーク内で分析できていることから、フレームワーク自体は良く考えられていると感じた。しかし、無理やり同じフレームを当てはめようとして、当該業界では古いと考えられるような不確実要素の抽出や、論理の飛躍があるなど、所々に無理が生じている。特に、不確実性抽出後の戦略策定に関しては、4つの業界で必ずしも完璧に同じフレームワークを使えているわけではない。
そこで、このフレームワークは、「外部環境における3つの不確実要素の抽出」と、「2×2×2の8象限でのシナリオ分析」までを使い、後は自由に戦略策定を行う使い方がよいのではないかと考える。
【図表】 「不確実性」に対して必要な戦略策定・実行プロセス
(注)☆「黄色」:既存の手法。☆「水色」:提案手法。
(出所)松下芳生・他『戦略のパラドックスへの解』(2008年10月)を基に日本総合研究所作成
補記(コメント:新保豊)
マイケル・E・レイナーのローカライゼーション(日本市場への適用)ですね。一見、テクニカルなことに注力している書と見受けました。
私は読んでいませんので、憶測は慎むべきなのでしょうから一言だけ。

特に1990年代以降の不況下にあって、わが国は産業や経済のみならず、経営学などの学問(厳密には経営を学問することの意味は別途問う必要があり)の世界まで自信喪失となりました。

そこで、ある者は米欧にこぞって留学し、また別のある者たちは、日本のビジネススクールなどにおいて、その前の留学組(例:フルブライト留学生としてハーバード大学で経済や経営に関する学位を取得した者)から学び、経済学修士か博士あるいはMBAを目指す、といった傾向が今も続いています。この書については分かりませんが、つまり一般論ですが、いわゆる日本への適用=ローカライゼーションの域を出ていない傾向が殆ど全てを占めて来たことに、わが国の失われた15年超という悲劇があったのではないかと・・・

ごく最近では、「一貫して日本経済の構造改革の必要性を主張、小泉内閣の頭脳と称された、現代日本を代表する経済学者」で、そのハーバード大学でも学んだ中谷巌さん(一橋大学名誉教授)の懺悔の言が有名になり、一部の専門家の反省・反転・転進が始まっているようです。私はここでは何も付け足しません。

ここで書いておきたいことは、時代の権威を「まずは疑ってみる」という姿勢です。これが真の学問的なアプローチであり、私たちの仕事(リサーチ・コンサルティング)においても不可欠なことだと感じています。

私はこの種の読書を否定しません。様々な立場にある専門家の考察結果を学ぶことは、どこかできっと参考になると思いますので。ただ、何でも「急がば回れ」とはなりません。山浦さんも、以降はここで示したような点に留意し、様々な書籍に挑戦していけると、より一層核心的なことが学べるのではないかと期待しています。

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