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コラム「研究員のココロ」

管理職再生の方向性

2007年11月19日 大久保修三


1.疲弊する管理職

 管理職の重要な役割は、いうまでもなく管理統括部署の業績向上と部下の育成である。
 その役割機能が十分に果たされていないことを多くの経営者は嘆いている。そしてその原因は管理職の役割意識が希薄であり、マネジメントスキルが乏しいためであるとして、管理職向けの研修を強化する企業が増えてきた。もちろん、これは正しい認識であり、そのための教育はむしろ必要不可欠である。
 しかしながら、近年、企業を取り巻く環境が急激に変化し、それに対応するための様々な取組みが必要となった結果、そのしわ寄せが管理職に集中していることも全体としてのマネジメント力が低下している大きな要因ではないだろうか。
 企業において最も重要な経営資源は人材であるが、その中でも現場を管理監督し、部署業務遂行の中心となる課長クラスの中間管理職に対する経営側の期待は大きい。社員のキャリアパスにおいても、まずは管理職に昇進することが当面の目標であり最初の大きなハードルでもある。通常は、管理職に登用されるということは、会社からその実力を認められ期待されているということでもある。しかしながら、今、この中間管理職の多くが心身両面で疲弊しており、モチベーションを低下させている。さまざまな役割と職務が管理職に集中し、さらにそれが増加しつつあるためである。

 日本経営協会による中間管理職(課長クラス)を対象としたアンケート調査の結果(「日本の中間管理職白書2007」)によると、「自分に求められている役割」として「部下・後輩の指導育成」が85.0%と最も多く、次いで「部門業績の達成」が74.2%、「担当部署の活性化」55.1%の順となっている。ただし、これはあくまでも「どう考えているか」という質問に対する回答であるため、実際にそのような役割を果たしているか否かではない。一方で、抱えている問題や悩みで最も多かった回答は「業務量が過大」41.2%となっており、2番目に多かった「業務目標のハードルが高い」20.5%や3番目の「他部署との連携が不調」19.5%と比べると、突出していることがわかる。
 この調査結果から、中間管理職層は自分の役割については理解しているものの、それを十分に果たせていないのは業務量が過大なためではないか、と考えられる。

2.管理職を取り巻く環境の変化

 管理職を取り巻く環境の変化として以下の点が挙げられる。
 まず、管理すべき部下は、かつてのように若手の正社員ばかりでなく、派遣社員やパート・アルバイト社員が混在しており、自分より年長の部下を抱えるケースも稀ではない。そのため、以前に比べて業務分担や指示命令においても格段に多方面にわたり配慮や気遣いが求められる。部下に対して同等に仕事を配分し、同様の口調で指示命令する訳にはいかなくなった。セクハラやパワハラへの配慮も欠かせないし、できるだけ残業させないようにしなければならない。サービス残業や自宅で業務などはもってのほかである。さらに、近年、多くの会社で導入が進んでいる内部統制や法令順守について現場を統制するのも管理職の役割である。個人情報や営業情報の保護に関わる新たなセキュリティシステムが導入され、仕事の進め方も変更を余儀なくされている。管理職は現場の責任者として、これらの新たなしくみやルールを熟知し、部下に指導し、さらに部署業務や部下の行動を常にチェックする責任がある。業務改革プロジェクトや情報システムの導入にあたってプロジェクトのリーダーやメンバーに任命される機会も多い。それでも、会社からは前年を上回る業績を上げることを期待される。
 さらに追い討ちをかけるのが、成果主義などへの人事制度改定にともなう評価者としての役割の増加である。自分自身の目標設定に加え、部下の目標設定についても面接を通じて指導を行い、精緻な評価基準にもとづいて部下の日常行動を観察しなければならない。

 以上のように、ただでさえ、管理すべき事項が増えてきたことに加え、バブル崩壊後の長引く不況で企業は新規採用に慎重になり、人員が削減される中で、管理職層であっても実務レベルのルーチン業務を担当せざるを得ないプレイングマネジャーが増加している。特に課長クラスの中間管理職では大企業においてもその傾向が強い。
 増加した業務を処理するためには時間外や休日での勤務が必要となる。しかしながら、管理監督者に対しては、労働基準法の時間外労働の規定から除外されているため、時間外労働の割増賃金は支給されない。そもそも、管理監督者が時間外労働管理から除外されているのは、経営者と一体となって従業員を管理監督する立場にあり、その職務は時間管理になじまない、というのがその理由である。つまり、プレイングマネジャーは想定していないのである。中には、「管理職」とは名ばかりで、担当者としての業務比率がかなり高い場合もある。通常、管理職は基本給水準が高く設定され、さらに管理職手当が支給されてはいるが、残業が多く時間外勤務手当の多い部下との給与水準が逆転するケースは決して珍しくない。

3.管理職のモチベーション低下とその影響

 上司の激務や責任の重さを日々、目の当たりにしている部下からは、ライン管理職への登用を希望しない社員が増えてきている。昨年、日経ビジネスが実施した一般社員(非管理職)に対するネットアンケート調査(「日経ビジネス」06.11.6号 特集「管理職が壊れる」に掲載)の結果によると、「将来、管理職になりたいか」という設問に対して、「絶対になりたくない」9.4%、「あまりなりたくない」44.7%という回答であり、実に半数以上が否定的な意見を表明している。
 本来、管理職に登用される(ポストに就く)ことはモチベーション向上の要因のはずである。それが忌避されるということは、今の管理職が魅力も希望もないものとして受け取られているということである。これは昇格や昇進が社員のインセンティブとして機能しなくなる恐れがあるということであり、人事政策の根幹に関わる重要な問題である。
 さらに、マネジメントスキルに乏しく、マネジメントに時間を割くことができない管理職の存在はマネジメント不在の状態を生み、結果として組織の管理統制が不十分となってリスク管理が甘くなり、人材育成も疎かになってしまう。会社が最も期待を寄せている中間管理職が、皮肉なことに組織を蝕む元凶となる恐れをはらんでいるのである。
 それでも管理職本人はそういった不満や弱音を周囲に漏らすことはあまりない。責任感が人一倍強く、部下や上司に弱みを見せたくないというプライドが高いためである。そのため、自分でも気付かないうちに内部にストレスを溜めたり体調を崩したりするケースが多く見られる。
 最近、話題になっている「ワークライフバランス」(仕事と生活の調和)は、非管理職層を想定して論じられることが多いため、管理職については経営者と一体となって、むしろそれを促進させる側の立場とされているが、管理職こそワークライフバランスによる心身の再生が必要なのではないか。

4.管理職の役割機能の再定義と環境の整備

 以上、述べてたように、管理職が本来の役割を果たせていないのは、管理職自身のマネジメントスキルの欠如に加えて、会社の内外に存在する様々な阻害要因により本来のマネジメントができる環境が整っていないことも指摘される。
 マネジメントスキルに関しては、そもそも管理職として適性のある人材が任用されているかどうかを問う必要がある。管理職になってからスキルを身につける訓練をしても遅いのである。もっと早い段階からマネジメント教育を計画的に行うべきである。
 候補者の段階から意図的に後輩の指導を任せたり、「チームリーダー」や「課長補佐」などの肩書きを相応の役割、権限、責任とともに付与する方法もある。その上で、リーダーとしての経験を積ませ、時には意図的にハードルの高い業務を任せて試練を与えながら育成することが必要である。そして、マネジメントに関する基本的な知識・スキルの習得は集合研修で実施し、能力や適性をアセスメントした上で任用することが必要である。

 環境整備に関しては、まずは、組織や管理体制、業務分掌、権限や責任が旧来のままで管理職にのみ過重な負担を強いているところに問題がある。管理職の負荷軽減やマネジメント業務を支援するしくみを構築する必要がある。
 理想を言えば、管理職がマネジメント業務に専念できるように、ルーチン業務はすべて部下に移管し、管理職の権限を代行する補佐職を任命すれば、多くの問題は解決できるであろうが、現実には人員の増加は容易ではない。当面は、限られた人材の中で、出来る限り役割責任の分散化をはかり、また、人事、総務、経理、情報システムなどの管理部門が管理職に対する様々な支援策を講じることが必要である。「現場主義」を標榜するあまり、従来、管理部門が担ってきた業務が必要以上に現場に委譲されているのではないだろうか。
 このようなことも含めて、管理職としての役割をその優先順位も含めて再定義し、経営陣と管理職が共通の認識を持つことが必要である。管理事項があまりに多すぎて何から手をつけて良いか分からずに立ちすくんでいる管理職も多いことであろう。

 管理職の仕事はもっとやりがいのある魅力的なものとならなければならない。細かな内向きの管理業務やルーチン業務ではなく、前向きに将来に向けて成果を追求し、達成感と充実感を味わえるようなものへと再設計することが急務である。

以上

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