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日本総研ニュースレター 2014年9月号

ICT技術をベースとした独居高齢者見守りインフラ構築の必要性

2014年09月01日 劉磊


福祉・介護従事者増員が独居高齢者急増に間に合わない
 熱中症で倒れ自宅に「閉じ込められた」高齢者が消防隊に救助されたというニュースやコミュニケーション不足で認知症が深刻化した問題など、いわゆる独居高齢者関連の話題に接する機会が、彼らの人口とともに急増している。2010年時点でも498万世帯に上る国内の独居高齢者世帯は、2035年には762万世帯にまで達すると予想される。
 独居高齢者関連の問題のほとんどは、周囲の眼が届かないことから発生している。しかし、高齢化と労働人口の減少が同時に進む大規模な社会構造の変化に対し、政府・中央省庁を中心とした福祉・介護従事者の増加策がとても追いつかない状況だ。さらに、医療・介護を含む社会保障予算の増加はすでに一般財政を逼迫しており、今後も上記人口構造の変化に伴い一層の増加が予想される。

環境センサーの連携等によるアクティブな「見守り」
 そのため、先進的なICT技術を活用し、最小限の人員で独居高齢者の在宅見守りができるインフラの構築が期待されるようになった。実例としては、「湯沸しポットの使用頻度」「ベッドのセンサーが把握した睡眠状態」「靴に装着する圧力センサー+GPSが把握した外出状況」などについて、各機器から電子メールで安否や生活状況を離れて暮らす家族に知らせるサービスが、既に一部実用化されている。
 ただし、今のところ、在宅見守りはまだ黎明期にあり、利用者本位のサービスには至っていない。操作に一定のICTリテラシーが必要で高齢者には難しい場合があること、そして、各サービスが孤立しているため「全生活の見守り」が困難なことなどが原因だ。例えば、上述のような一つ一つの技術による「ゆるい見守り」だけでは急性の状態悪化(転倒、心疾患、脳血管疾患の発作等)への対応は難しい。急性の状態悪化の場合は早期発見が特に重要であり、発見が遅れた場合との予後の違いは明らかであり、医療費等の社会負担のほか、本人のQOL、ひいては家族のQOLにも大きく影響を及ぼす。
 ICT技術による見守りサービスをより実用的なものとするには、高齢者による機器操作を最小限に限定し、彼らの全生活シーンをアクティブに把握できる「セーフティネット」システムとする必要がある。基幹となるのは、居間、寝室、トイレ、浴室など各生活シーンでのリスクに対応した環境センサー群とそれらを連携させるシステムだ。また、特に転倒時などの対策として、服や体に装着するウェアラブルセンサーの併用も欠かせない。さらに、在宅見守りシステムに蓄積されたデータの解析から利用者個人の生活シーンをモデル化し、リアルタイムのデータ処理を並行して行うことで異常を検知し、疾患・転倒などの予測を行う「予備医療機能」を備えるシステムの開発も期待される。

社会インフラの一つとして、高リスク群からの導入促進を
 見守りサービスの国内での市場規模は、2010年時点では90億円程度にとどまる。しかし、早期発見と予防措置による総医療負担減や高齢者のQOL向上に貢献する社会インフラの一つとして今後大きく発展させるには、法制度の整備による後押しが不可欠だ。例えば、「見守りの結果」の範囲と責任についての明確な定義や業界規格の整備・統合を推進し、技術開発の加速やサービスレベルの向上を積極的に図る必要がある。また、地方自治体が主体となって、高齢者の健康状況を定期的に調査し、健康リスクの高い高齢者層(独居、二次予防事業対象者、要支援認定者など)を把握することを定め、高リスク群の独居高齢者宅を中心に積極的に見守り機器の設置・普及を図るべきだ。
 2006年に消防法が改正され、各家庭への火災報知機設置が義務化された背景には、米国における1970年代からの火災報知機設置義務化と義務化以降に火災による死亡者数が劇的に減少したという実績がある。他国に見ない超高齢化社会が進行し、男女平均寿命の違いなどよって高齢者の独居率が高い日本は、高齢者福祉医療分野では先例のない課題先進国といえる。高齢化社会におけるICTインフラ構築と活用を展開し、在宅見守りをはじめとする高齢化社会ソリューション開発、マーケティング開拓、ビジネスモデル構築に積極的に取り組むことは、近未来に到来する「超高齢化世界」への備えとして今から必要だと認識するべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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