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日本総研ニュースレター 2013年10月号

多死社会
一人ひとりが「死に方」を考え、それを実現する仕組みが必要

2013年10月01日 齊木大


これからの高齢社会で求められる「多死への対応」
 今後進展する一層の高齢化は、死亡数の急増ももたらす。2010年に約120万人であった年間死亡数は、2025年まで5年間ごとに約10万人ずつの増加を続け、団塊世代が80歳代後半となる2030年代には160万人を超える見通しだ(図表1)。これ以降も年間150万人以上と高止まりする。
 つまり、高齢社会への対応と一口にいっても、これまでの「高齢化のスピードへの対応」の延長として「多死への対応」が不可避となる局面に入ることになる。政府では、団塊世代が後期高齢者となる2025年をめどに、推地域包括ケア体制の構築に取り組み始めた。

顕在化する社会的課題
 このように、高齢化の後に死亡数が増加し人口減少が加速する状況は「多死社会」と呼ばれる。最近は、多死社会の到来で顕在化すると見られる、「看取りの場所」、「家族や介護者へのケア(グリーフケア)」、「遺産等の円滑な取り扱い」さらに「火葬場」などの課題が注目されるようになってきた。
 例えば、1点目の「看取りの場所」については、現在は病院が約8割を占め、この割合のまま多死社会を迎えると、病院、特に救急医療の対応力低下が懸念される。一方、「自宅で最期を迎えたい」国民が半数を超えるという統計もあり、自宅等で最期を迎えられる社会環境の構築が求められる。
 2点目として、多死社会は看取りに立ち会った家族や介護者の増加も伴い、彼らの心のケアも大きな課題となってくる。
図表1 死亡数と高齢化率


(出典)2010年までの死亡数は人口動態統計(日本人)。2010年までの高齢化率は国勢調査。2015年以降の死亡数と高齢化率は「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)の出生中位・死亡中位仮定に基づく推計」

この「家族や介護者へのケア(グリーフケア)」については、家族だけでなく、今後は医療・介護従事者向けのグリーフケアも拡充するべきである。既に取り組み始めている医療機関等もあるが、一層の広がりを期待したい。
 なお、社員のメンタルヘルスに関心が高まる中、企業には、今後増加する「家族を看取った社員」へのグリーフケアが求められることになると考えられる。併せて、非正規雇用の割合が多くなる中で誰もが看取りや葬儀のために十分な休暇を取りやすくする環境づくりも必要であろう。
 3点目の「遺産等の円滑な取り扱い」については、遺言の活用の推進が欠かせない。ただし、今後は近隣に家族・親族が居ない一人暮らしの高齢者や、認知症等により判断能力が低下する高齢者が増えるとみられることから、遺言等の準備を高齢者個人に任せるだけでなく、それを補佐する仕組みの拡充も必要であろう。成年後見制度は担い手が少ない等の課題も多く指摘されているが、法人による後見も含めた取り組みを進めることが求められる。
 さらに、こうしたソフト面の課題だけでなく、多死社会ではハード面の課題も大きい。例えば4点目に挙げた「火葬場」である。新設が極めて困難な状況も災いし、特に都市部・郊外部においては葬儀後火葬までに1週間程度を要してしまう事態も想定される。なお、2040年以降は、多死の影響で総人口の減少が加速するとみられることから、整備したインフラをより小さな規模の財政で支える工夫も必要となる。

思いを伝えるコミュニケーションと実現させる社会インフラ
 ここまで顕在化が見込まれる主な課題を挙げたが、これら以外の課題も数多い。しかし、人生の最期がこうした社会的課題がゆえに心残りとなるようなことはあってはならず、本人および家族の双方にとって納得のいくものであって欲しい。そうした一人ひとりの「自分がどのような最期、豊かな死を迎えたいか」の思いを尊重するには、結局、最期の迎え方に関する家族等とのコミュニケーションが何より重要であるが、その思いを実現させるためには社会インフラやサービスの充実が必要不可欠なのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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