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「想定外な変化」に “未来洞察”で備えよう

2018年06月01日 粟田恵吾


「不確実」「非連続」な未来を捉えよ
 これまで多くの企業において、新規事業開発は自社の強みに基づいてアイデア発想され、中期経営計画は現状レビューを起点としたPDCAサイクルをベースに検討されてきた。その際、3年程度の未来変化を開発・計画策定の起点となる「情報」とし、さらに未来像を描く際の議論やコミュニケーションでは自社事業や業界構造が大きくは変わらないことを前提とするケースがほとんどであった。
 しかし、デジタル化の波を中心とした想定外な環境変化が次々と起こる現代では、関係がないと思い込んでいた非連続な変化や、あり得ないと決め込んでいた「飛びのある」アイデアを想定・発想する必要性が急速に高まっている。
 英国やシンガポールの政府では、非連続な変化の兆しを捉え産業に活かすための常設組織を2000年代前半に立ち上げた。後述するスキャニング手法を使ってシェアリングエコノミーやSDGsなどが伸長する兆しを見付け出し、産業界などへ戦略転換を促してきたという。また、70年代の石油ショックからシェルが早期に立ち直ったのは最悪のシナリオを予見していたからとされるが、不確実な未来への対応は経営技術の一つとしてさらに高度化され、最近ではIBMが北欧の電子政府化など課題「発見」にも活用されている。

「スキャニング」を活用した未来アイデアの創発
 「未来洞察」では、世の中にある未来変化の情報をFACT、FAITH、 FEARの3層に分けて考えることで、先入観に囚われない未来像の獲得を目指す(図参照)。


 第1レイヤーのFACTは、自社動向など既知の事柄、第2レイヤーのFAITHは、把握できていない業界動向や顧客の潜在的なニーズなどを指す。このFACTとFAITHの領域の情報を使って未来の仮説を考えることは、蓋然性の高い未来を想定する、「線形未来予測」と言える。
 一方、第3レイヤーのFEARは、自社の市場・業界の外側全てが含まれ、これまでの経験が通じない、本能的に恐れ(fear)を抱く領域である。例えばグーグルやアップルによる自動車業界への参入は、競争ルールの変更をもたらし得る、FEARの顕著な事例であった。FEAR領域では、特定テーマを決めずに新聞・雑誌や論文・ブログなどから広く浅く情報収集する「スキャニング」によって、これまで視野に入らなかった分野の不確実で非連続な変化の兆しを取り込みながら、「非線形未来予測」を行う。
 つまり、未来洞察は、線形未来予測に留まらず、スキャニングで視野を拡張させた非線形未来予測まで行い、非連続なアイデアをも数多く創発することで、新規事業や長期ビジョンに活かす実践指向の取り組みなのである。

「想定外な変化」を変革や成長の源泉にする
 未来洞察のアウトプットは、年表の形に視覚化することで組織的な蓄積や共有が可能になる。
トヨタ自動車では、「FACTに基づく蓋然性の高い未来シナリオ」と「スキャニングによる不確実性の高い兆しシナリオ」とを組み合わせた未来年表を作成している。ここでは2050年までに起こり得る50個以上の「社会変化シナリオ」を独自に洞察し、時系列に表現している。
 この未来年表は公開され、異業種の企業や自治体からの訪問者との「共通言語」として活用されている。最近では、電動化やシェアリングエコノミーなど自業界の未来イシューと社会変化シナリオの関係についての事業環境変化シナリオが追加作成され、全社で共有されるようになった。
 未来年表を自ら作成し、継続的に議論を深めることは、組織の未来リテラシー向上につながる。重要なのは、日々変化する外部情報を継続的に取り込むことで、「想定外と思っていた事象」を想定内に引き入れ、組織の変革や成長の源泉にしていくことである。

 「想定外な変化」は理解に時間がかかり、にわかには受け入れがたい変化ゆえに対応が後手に回りやすい。そこで、未来洞察によって変化の兆しを捉え、いち早く組織全体で理解・共有し、想定外な変化をむしろ味方につけるようにすばやく事業・経営を変革していこうとする企業が増えているのである。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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